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vol.626-1(2015年2月16日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―52

 あと20日余で3・11から丸4年が経つ―。
 2月初旬。私は2泊3日で姫路・神戸・大阪・京都・名古屋に出向いた。
 姫路で会った日、72歳の誕生日を迎えたというHさんは、若い頃に日本陸連に勤務。東京オリンピックのときは裏方として国立競技場に通い詰め、結婚後、姫路在住になった。見知らぬ土地に早く馴染もうと、同年代の女性を募って健康体操を開始。今では「お助けおばさん」と呼ばれ、3・11後は仲間と宮城や福島の仮設住宅を訪ねるなど、ボランティア活動に余念がない。
 「私は3・11を忘れません。3月8日には健康体操の演技発表会を開き、東北震災支援コーナーを設けます。6月には福島に行く予定です」
 姫路からJR新快速で神戸へ。「大島鎌吉研究」の第一人者・関西大名誉教授の伴義孝さんと一献傾けた。
 「岡君、ここ最近はフクシマルポ書いてないね。大島は怒ってるかもしれないよ・・・」
 「すみません。『怠る偸安を許すな!』ですね・・・」
 飲んだ場所は三宮の繁華街にある小料理屋。後期高齢者と思われる女将は阪神・淡路大震災のときでも新聞配達をしつつ営業を続け、私は取材で出向くたびに飲んでいた思い出の店だ。レバや砂ずりの刺身が食べられる店で、旅の疲れを癒してくれる。
 翌朝は阪神電車で甲子園球場に行き、隣接するY旅館のご主人に3年半ぶりにお会いした。Y旅館は高校野球甲子園大会の際、出場校の宿泊先になっている。最近の代表校は大手ホテルに宿泊するため、貴重な旅館だ。ホテルには真似のできない手づくりの接客で球児たちの世話をしている。
 「私の誕生日は1月17日ですが、ここ20年間はケーキにロウソクを立ててね、両手を合わせていますね。1・17も3・11も忘れてはいけないんですよねえ」
 ご主人の言葉に、私は頷いた。過去を忘れてはいけないのだ・・・。
 その夜は1人で大阪・江坂の居酒屋に出向くと、メニューに紅しょうがの天ぷらを見つけた。“紅天”やおまへんか。120円也。
 瞬間、私の頭ん中に半年前からのマイブーム『深夜食堂』ワールドが広がった。まずは番組冒頭のナレーションを諳んじた。
 1日が終わり、人びとが家路に急ぐ頃、俺の1日が始まる・・・。
 私は紅天・げそ天・あさりの酒蒸・まぐろ刺を肴にマスター役の小林薫の言葉に従い、お酒は3本まで。飲みながら着流し姿の常連客役・オダギリジョーが口にする意味不明の言葉が頭を過る。
 世の中は下流・中流・有栖川。人生舐めんなよ・・・。
 約2時間半。最後は“お茶漬けシスターズ”に倣い、茶漬けを食べて店をおいとました。ついにマリリンは姿を見せなかった(ん?)。

 3日目は京都。私は昨年師走にも参拝している、東山の御寺泉涌寺の塔頭寺院である即成院に急いだ。鎌倉時代の武将・那須与一ゆかりの寺院でもある即成院では、来月22日に「読経と音楽による東日本大震災支援」チャリティ・コンサートが行われる。私は招待されているのだが、今のところ出席できない。そのため前もってお参りし、住職にお礼を述べたかったのだ。
 京都を去り、尾張名古屋で途中下車。地元で出版社“ゆいぽおと”を営む山本直子さんに久しぶりにお会いした。山本さんは6年前『伊勢湾台風―水害前線の村』を出版してくれた、私にとっては恩人というべき編集者だ。
 「名古屋の人たちも3・11のことは忘れていませんよ。これを読んでください」
 そういって山本さんは私に1冊の本とチラシを差し出した。本のタイトルは『ひとやすみ』(茶畑和也著)、チラシには『1446コのハート展』と記されていた。山本さんが説明した。
 「著者の茶畑さんは名古屋市在住のイラストレーターで、3・11後『ぼくにできることは何だろう?』と考え、毎日ハートを描き続けているんです。それを絵本として出版しました。来月の11日から17日まで、名古屋市のギャラリー安里で『1446コのハート展』を開きます。3・11から来月で1446日も経つんですね。でも、名古屋の人は忘れませんよ、伊勢湾台風と同じように・・・」  山本さんと別れ、夜8時過ぎの東京行の新幹線に乗車。私は2泊3日の旅を終えた。今週は福島に行く―。

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