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vol.654-1(2015年11月2日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―65

 就寝前、スマホの万歩計を見ると1日の歩数が情けないことに300歩以内ということもあり、自宅にいるときの私の日課は散歩することだ。「最低5000歩以上!」を目標に自宅周辺の林の中や人通りの少ない道をひたすら歩くのだが、その途中に老人ホーム(特養)がある。中に入ったことはないが、「祝第3回介護甲子園 最優秀賞!!」と書かれたタレ幕が掲げられているのが気になっていた・・・。
 前号のルポ64で南相馬の65歳以上の高齢者は2万人を超え、人口の高齢化比率は実に31.3%。国の約26%を大きく上回る数値だが、介護施設に入るには順番待ちで、延べで2000人以上の高齢者が待機し、デイサービスもなかなか受け入れてもらえない状況だ。そのため将来は間違いなく「姥捨て山」状態になるだろう、と記した。
 以上の原発禍にある故郷・南相馬の現実は、やはりほかの自治体と比べると異常事態であった。
 故郷から埼玉の自宅に戻った翌日、私は町のケアセンターが主催した、厚労省が展開する「認知症サポーターキャラバン」の講習を受けた。参加者は私を入れて10人で、うち8人は介護職員。1時間の講習を受けた後、「認知症の人を応援します」という意思を示す目印のオレンジリングと埼玉県認知症サポーター証が手渡され、参加者に感想を求められた。私はあらためて認知症の実態を知ったことに「勉強になりました」と頭を下げ、あえて南相馬の介護の現状を語った。老人ホームに入りたくとも介護スタッフが足りなく、なかなか入れないと。それが現実だと。そう説明する私に、だれもが驚きの声をあげた。私が住む町の場合、特養などの施設に入居(要介護3以上)する待機者は、南相馬の10分の1。多くとも延べ200人程度だったからだ。
 「デイサービスならすぐに受け入れていますよ・・・」
 町の安心相談センターの担当者は私にそう語り、住民票を移せば故郷のお年寄りをいつでも受け入れますよ、といってくれた・・・。
 11月11日は「介護の日」であり、11日後の22日には「介護から日本を元気に!」「介護から日本をつくる!」をスローガンに掲げる、日本介護協会は「第5回介護甲子園」を日比谷公会堂で開催する。

 先月の23日に国立競技場の解体作業は終了した。
 最後まで残っていた競技場全体を囲む黒いコルテン鋼(錆びない耐候性鋼)製の外柵もなくなってしまった
。  「あのコルテン鋼の柵は横幅1bで約15万円もする高価なもので、年月が経つたびに光沢がよくなる。いぶし銀のようにね。ネジで取り付けているため外せるし、どっかの牧場なんかに買い取ってもらえばいいんだが。捨てるにはもったいないんだよ・・・」
 長年、国立競技場の改修工事を担ってきた、私が「国立競技場を知り尽くした建築家」と称するYさんはいっていた。
 現在の国立競技場の跡地は、3・11の津波に襲われた被災地となんら変わらない。雑草が生い茂り、ブルドーザーで掘られたフィールドの窪地には雨水が溜まり、ボウフラが湧いていると作業員は教えてくれた。
 隣接する解体中の日本青年館のほうはどうか。顔見知りの解体作業関係者は、私に浮かぬ顔でいった。
 「まだどうなるかわからないのよ。だって白紙撤回になったため、新国立の設計図ができるのはまだまだ先だろう。それが決まらないと地下3階まである日本青年館の解体を、どこまでやっていいかわからない。まあ、俺らは12月25日までに解体を終了しろといわれているからいいけど。いいたくないけど国立競技場にしろ、この解体は金の使いすぎだ・・・」
 どこまで血税を使えばいいというのか。それが新国立競技場建設の実態である。

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