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vol.658-1(2015年12月1日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―67

 帰郷するたびに私は、地元紙の福島民報と福島民友のバックナンバーに目を通すことにしている。
 11月初旬。いつものようにページをめくっていると「豊島英(あきら)」の名を見つけた。
 10月17日、車いすバスケットボールのアジア・オセアニア選手権最終日に男子日本代表が3位決定戦で韓国に快勝。来年のリオデジャネイロ・パラリンピック出場を決め、翌18日付の1面とスポーツ面に《車いすバスケ男子リオ切符》(民報)《豊島(いわき出身)高い決定力 佐藤(郡山出身)冷静にプレー》(民友)の見出しで報じられていたからだ。
 初めて私が豊島さんに会ったのは、3年前のロンドン・パラリンピック開催を1か月後に控えた6月。3・11の原発事故から1年3か月後だった。
 クラブチームの宮城MAXでプレーする豊島さんは宮城県警に勤務している。が、3・11当時は東電の福島第1原発事務本館総務部職員として働いていた。
 「あの日は2日前にも震度5の地震があったため『またか』という感じでした。ところが、揺れが止まらないために車いすに座っていられなくなり、机の下に潜った。その後、仲間に背負われて免震重要棟に避難し、3日後に3号機建屋が水素爆発する前に原発敷地内を出て、いわき市の実家に向かいました。しかし、国道6号線は陥没していたりして通れず、遠回りして着いたのは翌日の朝方でした・・・」
 そう当時を振り返った、その後の豊島さんは東電水戸支店に異動となった。
 「当時のぼくは宮城MAXの練習に参加するには山形に行かなければならなかったんですが、水戸から山形までは車で片道約4時間もかかり、かなり厳しい状況でした。でも、1年後のロンドン・パラリンピックにはどうしても出たいし、出るには会社を辞めて宮城県に引っ越したほうがいいと・・・。かなり悩みました。自分のバスケットのために世間を騒がせている東電を辞めた場合、周りはどう思うか・・・。それに応援してくれる仲間を裏切ることになるんじゃないかと・・・。会社の同僚は『辞めるのはいいが、再就職先を決めてからにしろ』とアドバイスしてくれた。結果的に9月に退職し、仙台に引っ越しました。今の宮城県警に勤務することができたのは、年が明けた今年の4月ですから2ヵ月前です・・・」
 真摯な態度を崩すことなく、それまでの人生や車いすバスケットについて語ってくれた豊島さんは来年2月で27歳を迎える。リオでの活躍に期待したい。

 《五輪追加種目候補のサーフィンの会場に北泉海岸を立候補へ》
 11月12日付の民報と民友に、以上のような見出しの記事が載った。前日の11日、福島県サーフィン連盟理事長の室原真二さんと理事の奥本英樹さん(福島大教授)が南相馬市役所を訪問。
 「復興五輪と位置付けるならば、福島の海でサーフィン競技をやるべきではないか・・・」
 などと訴え、反原発を唱える桜井勝延市長は次のように語った。
 「北泉海岸が会場になれば、世界中に復興をアピールでき、かなりの衝撃になる。積極的に立候補を検討したい・・・」
 昨年7月だった。私は理事長の室原さんを取材している。1F(福島第1原発)から半径20`圏内に自宅を持つ室原さんは原発事故後、家族とともに山形市に避難。体育館生活を余儀なくされ、現在は福島市で避難生活を送りながらサーフボードの工房を営んでいる。仲間のサーファーとビーチクリーンに励む、当時の室原さんはいった。
 「原発事故当時は放射性物質のセシウム134と137が(1gあたり)300ベクレル以上検出されてね。『これじゃあ、永久にサーフィンはできない』と思った。基準値の100ベクレル以下になるのは無理なんじゃないかと・・・。まあ、1年前あたりから50ベクレル前後まで下がり、一応は問題なしと学者はいってる。要するにサーフィンをやりたいのなら自己責任でしなさいということですね・・・」
 20年東京オリンピックでサーフィンが正式種目になるには来年8月のIOC総会まで待たなければならないが、千葉県や神奈川県のサーフィン・ポイントを持つ自治体も会場誘致に名乗りを上げるという。北泉海岸でサーフィンに興じる若者に聞くといっていた。
 「ここでオリンピック? 無理じゃないすっか。原発から25`地点だし、あの通り近くには煙を上げる火発もあるしね。環境よくないっすよ・・・」
 3・11前、北泉海岸では全国各地からやってくるサーファーで賑わい、ASP(世界プロサーフィン連盟)公認の世界大会も何度か開催されていた。x

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