オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える
出版社: 集英社インターナショナル 価格:1,680(税込)
2005年度第16回「ミズノスポーツラーター賞」最優秀賞受賞作品
本書は3つのことを教えてくれる。第1にサッカーにおける監督の役割。サッカーというゲームの面白さがどこにあるのかが改めて示され、それを最大限に引き出すことができるのが本物の監督だということが理解できた。第2にオシムという希有な人物の半生記を通じて、国家と個人ののっぴきならない葛藤を考えさせられる。民族対立のすさまじさには慄然とさせられるが、それを超える力としてスポーツにかすかな希望を感じ取ることができる。本書はすぐれたサッカー指揮官の伝記である以上に、文化人類学的フィールド・スタディの書であるとも言える。そして第3に「言葉の力」。オシムの繰り出す言葉が選手の身体に入っていって、現実を動かしていく。深刻な対立の中でユーモアが果たす重要な役割が見えてくる。そこで忘れてならないのが通訳の間瀬秀一である。かれこそ「言葉の力」をもっともよく理解している、オシムの言葉の「助産夫」に違いない。本書はこの3つのテーマが相互に補い合いながら展開され、リスクをあえて引き受けて自分なりの人生をつくっていくことにこそ生きる意味があるというメッセージが浮かび上がる。著者は現地取材も交えてオシムを巡る人物の証言を広く集めている(巻末に取材協力者のリストがある)し、問題の発言や行動には裏を取る努力や別の見解を併記することを忘れていない。著者のオシムへの思い入れは深いものがあるが、適度な距離を取ってオシムを客観的に見ている。構成が巧みで文章にリズムがあり、情景描写も的確で読みやすい。 |