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be SOUL be SOUL
高橋 大輔 (単行本(ソフトカバー) - 2010/1/27)
 
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一歩を越える勇気 一歩を越える勇気
栗城史多 (単行本(ソフトカバー) - 2009/12/16)
 
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浅田真央 奇跡(ミラクル)の軌跡~ファースト・フォトブック (写真集) 浅田真央 奇跡(ミラクル)の軌跡~ファースト・フォトブック (写真集)
浅田 真央 ワールド・フィギュアスケート (大型本 - 2010/1/23)
 
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空に向かって
 
空に向かって
安藤 美姫 (単行本 - 2010/2/17)
 
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浅田真央公式写真集 MAO 浅田真央公式写真集 MAO
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氷上の美しき戦士たち 氷上の美しき戦士たち
田村 明子 (単行本 - 2009/12/10)
 
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5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド 5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド
谷本 道哉 石井 直方 (単行本(ソフトカバー) - 2008/11/14)
 
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キス・アンド・クライ キス・アンド・クライ
ニコライ・モロゾフ 大野 和基 (単行本 - 2010/2/2)
 
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サッカースカウティングレポート 超一流の分析 サッカースカウティングレポート 超一流の分析
小野 剛 (単行本(ソフトカバー) - 2010/2/1)
 
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オシムの伝言 オシムの伝言
千田 善 (単行本 - 2009/12/23)
 
         
         
     
     

 

 

オススメBooks
ケニア! 彼らはなぜ速いのか

2008年度第19回ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞作品
ケニア! 彼らはなぜ速いのか

1,850円(税込)
忠鉢 信一(ちゅうばち・しんいち)・著   文芸春秋


→ 陸上競技で中長距離界を席巻するケニアの選手。彼らの強さには何か科学的に証明できる根拠があるのか。世界中でその「謎」に興味を持ち、研究を続ける学者は数多い。
 朝日新聞のロンドン駐在員で市民マラソンランナーである忠鉢記者は、雑誌“ランナーズ・ワールド”に紹介されたグラスゴーのピツィラディス博士の新学説「ケニアのランナーはレース前に減量し、水分補給も少なく、身体を軽く保っていることが速さの理由」に惹かれ取材に訪れる。ギリシャ系で精力的な博士は典型的なフィールド派で、エチオピアとケニアの陸上選手から膨大な細胞サンプルを採取し、いわば定説である「強さは遺伝」を覆すべく研究に打ち込んでいた。さらに、“ネガティブ・バランス”即ちエネルギー消費が摂取を上回る状態でケニア人はかえって好成績を上げていることを実証し、レース中に十二分に水を補給すべきというスポーツ界の「常識」はゲータレードの陰謀だと主張する。
 遺伝の定説はスウェーデン人で、現在はデンマークのマッスル・リサーチ・センターで所長を務めるスポーツ医科学の大御所、サルティン教授が永年の研究から導いた推論である。著者はコペンハーゲンを訪ね、サルティン教授と助手のラーションから彼らの研究成果を聞く機会を得た。ケニアの中でも特に優れたランナーであるカレンジン族の「脂肪燃焼効率」と「下肢の細さと軽さ」に着目し、その遺伝的体質こそが速さの秘密だというのだ。
 研究者の解説に驚きと一定の納得性を感じつつも、忠鉢記者はどこかで疑問と違和感を覚えていた。ピツィラディス博士に紹介されたアメリカ人の女子大生でケニアのフィールド・スタディを続けるアンディ・ジョンソンにロンドンで面会した著者は、ケニアに数多くある「キャンプ」の存在を知る。キャンプとは中長距離ランナーのトレーニング施設で、中でもカプサイトという僻地に注目すべきキャンプがあるという。主宰者で、自身2時間7分台のマラソン選手だったエリック・キマイヨの連絡先を教えてもらい、著者はナイロビ経由ケニアの辺境の地に赴く。
 電気もないカプサイトのキャンプでエリックの話に耳を傾け、トレーニングにも果敢にチャレンジして肌身でカレンジン・ランナーのメンタリティーを理解してゆく。ランナーになることは生計をたてるため。そしてトレーニングを積めば「誰でも速く走れる」はずだ、という信念。そして「その気にさせるためのトレーニング法」である。折りしも、ケニア第2の都市、モンバサで開催されるクロスカントリー世界選手権を取材した忠鉢記者は、現地で学者たちと再会を果たす。更には、空港や、ホテル、会場などで選手やコーチに取材する機会を得るが、「ケニア選手の強さはこれだ」、という科学的根拠はとうとう得られなかった。強さは複数の要素が絡み合った結果に違いない。
 でもその中心にあるのは独特のメンタリティーなのではないか、と著者は推測する。
 着想から取材、さらに展開と力強いストーリー構築で面白く読んだ。世界遺産を訪ねるネイチャー・ドキュメンタリーのようであり、サイエンスに重きを置いたトラベル・サスペンスのようでもある。局面が次々と展開してゆく構成は、多分にベストセラー小説である「ダヴィンチ・コード」の影響を受けているような印象を持ったが、だからと言ってそこに嫌みは感じない。新鮮である。文体は歯切れがよく、短い文章を畳みかけるように積み上げてリズム感がある。所々に挿入されている会話も生き生きしていて、リアリティを演出している。
 確かに、ケニア選手の強さ、速さに接したとき我々は驚き、あきらめに似た心境で「サバンナを走り回っているから」とか「高地で生活しているから」と言い訳を思い浮かべるのではないか。しかし、本当にそうなのだろうか。本書を通じ、数多くの真剣な研究がなされている事実に驚くと同時にカレンジンという部族の存在、部族問題、ケニア国民生活におけるロードレースのポジションなど興味深いテーマを知った。欧米人がアフリカンに対して抱く「研究対象」としての目線も改めて見えたような気がする。大学でスポーツ科学を専門とする学部に在籍した著者ならではの理解力と、コミュニケーション能力を伴う語学力の高さによって、かなり難解な医科学、生理学の専門領域すら抵抗無く読み進められるのは見事である。従来のスポーツノンフィクションにはなかった新領域を開拓した作品と言えるのではないだろうか。
 取材には3ヶ月かけたという。そして一昨年6月11日〜15日の朝日新聞夕刊で「長距離王国ケニアからの報告」として連載された。しかしながら、新聞連載は忠鉢記者が掘り起こしたテーマのほんの一部でしかなく、もったいない。一方、本書においても結論は尻つぼみである。著者の信じるところをもっと大胆に言い切っても良かったかもしれないが、このテーマにはまだ先がある、と筆者が結びに述べていることを信じ、さらなる取材と執筆活動に期待したい。今年40歳になる1969年生まれ。既成概念に囚われず、探求する姿勢を持ち続けていただきたい。書店の棚に並んでいても、惹きつける「タイトル」もいい。

吉田沙保里―119連勝の方程式

2008年度第19回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作品
吉田沙保里―119連勝の方程式

1,470円(税込)
布施 鋼治・著    新潮社


→ 北京で女子レスリング55`級五輪2連覇を達成した吉田沙保里の強さと、微笑を誘う性格、吉田を育てた家族や指導者たち、女子レスリング関係者の物語を丁寧に書き上げた作品である。ほのぼのとした温もりに包まれる、読後感のさわやかな佳作だ。
 吉田の父・栄勝は元全日本チャンピオン。レスリングにかける情熱から、三重県津市の自宅に「一志ジュニアレスリング教室」を開いてちびっ子レスラーを育てている。沙保里は母の膝に抱かれて、二人の兄が練習している姿を見ながら育ち、3歳から父の指導を受けた。厳しさの中にも子どもの自主性を尊重する父と、温かく包み込むような母。スポーツのまっただ中で育ち、心も体も自然に磨かれて素質が開花する。
 物心つく前から目に焼きついたレスリングの感覚に加えて、目にも留まらぬスピードの必殺タックルと人並み外れた集中力を持つ。なのに、泣き虫で、大事な試合の前には決まって発熱する。明るく、人に親切でやさしい。格闘技が専門の著者がインタビューで強さの秘密を探ろうとしても、とらえどころがない。今まで接してきたレスラーのどのタイプにもあてはまらない。あっけらかんとしすぎており、「いい子」「いい人」すぎる、と感じる。なぜ、この「いい子」がそんなに強いのか、理解できない。吉田が姉と慕う中京女子大の先輩、岩間怜那や栄監督に疑問をぶつけても、二人はあっさり「沙保里は変わっているから」と笑う。変わり者なのに、この子の背中を押してあげたいと周りの誰もが思う求心力を持つ存在、それが吉田沙保里であると著者は書く。
 吉田は2001年12月の全日本選手権準決勝で先輩のライバル山本聖子に敗れあとは無敗記録を119まで伸ばしていた。どこまでも続くだろうと思われた連勝が、2008年1月19日の女子ワールドカップ団体戦でマルシー・バンデュセン(米)にまさかの敗北を喫して途絶えた。相手がタックル返しを研究していた。微妙な判定でもあった。初めて外国人に負けたショックと悔しさに泣きじゃくる沙保里に、母がいった。「悔しいけど、また北京で勝てばいいんだから」。練習を続けている母校・中京女子大の谷岡郁子学長は「連勝がストップしてよかったね。北京の前でよかったね」といった。連勝記録のものすごい重圧が吉田にのしかかっているのがわかっていたから、周囲には「一度負けたほうがいいね」と本音をもらしていたのだ。
 吉田はこの敗戦から帰国してすぐ三重に帰り、父のレスリング教室で練習する子どもたちの姿を見て心が安らいだという。このちびっ子たちは頻繁に中京女子大レスリング部に出げいこに行く。吉田らが子どもらに接することで人間性を磨かれ、癒されるという話は、トップアスリートのあり方に大きな示唆を与えている。
 谷岡学長も興味深い人物だ。「女子レスリングの金メダルは、日本女性が社会の壁を一つずつ壊し、上がってきた百年の歴史の上にある“百年の肩車”だ」など、ユニークな発想と表現が面白い。アテネの金メダリストで一躍注目の的となった吉田らを、試験勉強を理由に「鉄のカーテン」で学内に守り、一方では、公の場で恥ずかしくないレディーとしてのエチケットやマナーを教えた。
 本書は当初「不敗の方程式」という書名を予定していたが、まさかの1敗で変更された。内容もかなり修正を余儀なくされただろうが、かえって人間・吉田沙保里のダイナミズムや強さの不思議がむしろ鮮やかに描かれることにつながったのではないか。08年7月の出版で、五輪直前のトレーニングで完結しており、2つめの五輪金メダルをカバーできなかったのは惜しいが、やむを得まい。著者の狙いはライフストーリーでも、復活ドラマでもなく、吉田沙保里という人間を理解し、伝えることにあったのだから。
 レスリングの専門知識にも裏打ちされた文章は安心感があり、読みやすい。女子レスリングの五輪実施・発展を見通し、自腹を切って選手強化の先頭に立った福田富昭日本レスリング協会会長の奮闘ぶりも面白い。
 重量感があるとはいえないが、新鮮な分野を取り上げた好著といえよう。

デットマール・クラマー 日本サッカー改革論

2008年度第19回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作品
デットマール・クラマー 日本サッカー改革論

1,890円(税込)
中条 一雄・著   ベースボール・マガジン社


→ 日本サッカーの改革者であり、救世主とも言われるドイツ人指導者デッドマール・クラマーの人となり、その指導論を、初来日からおよそ半世紀にわたって身近で取材してきた元朝日新聞記者中条一雄がまとめた。クラマーは今もドイツで健在ながらすでに齢83歳、著者の中条も一つ違いの82歳である。お互いに残された時間は少ない、書いておかねばならないことを書けるうちに、という思いが著者の本書執筆動機となったようである。
 18章からなる細かい章立てで、1960年から2008年現在までのクラマーの足跡を(時に1925年から1960年までの前半生もまじえ)たどった本書は、1996年、2005年、2006年と著者が3度にわたってクラマーのもとを訪れ、必要な証言を得て記憶を補完したことにより、まさしく貴重な日本サッカーの歴史の証言となった。連携プレーや守備力にすぐれながらも決定力を欠くFWの人材の乏しさ、勝つことへのどん欲なまでの執着がいまひとつ足りないこと、厳しさに欠ける日本人監督の「優しさ」という弱点、およそ50年前にクラマーが指摘した日本サッカーの問題点は今も変わっていないように思う。一方で、Jリーグに結実したサッカー環境の整備、サッカー技術の向上という着実な進化もみられた。その過程に、異国人として誠実に真摯に日本のサッカー改革にとりくんだクラマーの存在があったことが、平易で読み易い文章からよく理解できる。
 クラマーについてはこれまでも多くの文章が書かれ、NHKなどのテレビ番組でも紹介されてきた。この本で初めて知ったのは、彼がFIFA(国際サッカー連盟)コーチとして、あるいは個人として要請されてサッカーの指導をおこなったのは約90カ国にものぼるということである。その中には1991年1月から92年3月までの韓国・バルセロナ五輪代表チーム監督、97年2月から2002年2月まで5年にわたる中国での指導者養成が含まれる。大部分の日本人は、クラマーの日本サッカー界への関わりは東京五輪からメキシコ五輪までというイメージではなかろうか。その後は氏の関与がなくなり、元の木阿弥の停滞期が続いたという印象だ。しかし、クラマーはFIFAの指導員としてもいくたびか日本を訪れて指導し、サッカーの普及・振興や強化の指針を与え続けていたのだ。本書は彼がいかに日本と関わり、日本を愛し、日本サッカーの発展・向上に情熱を傾けたかをつぶさに描き、一人の国際サッカー人が世界の舞台で続けてきた幅広い活動と貢献を丁寧にまとめている。同時に、サッカー、いやすべてのスポーツに通じる、基本を反復練習し、体で覚えることという鉄則や指導者育成の重要性など、クラマーが繰り返してきた教えに帰る必要性を日本のスポーツ界に訴えている。
 本書は牛木素吉郎氏が主催する「ビバ!サッカー研究会」のホームページに2008年の1月まで約1年をかけて連載された記事に加筆したものだという。著者は82歳とは言え、文章からはとてもそのような年齢を感じさせない。古風な表現も見当たらない。きわめて明快でさわやかである。南ドイツの保養地で悠々自適に過ごしているクラマーのもとを3回も訪問して取材したという積極性も凄い。もちろん同年代のクラマー自身、まだまだ指導することをあきらめてはいない。二人の前向きさがリズムのよい文章の源泉になっているのだろう。60年代の前半から年代を追って淡々と、かつ驚くべき正確さで50年にもなろうとする事実を追い、生き生きと描写する。著者とクラマー二人の記憶力も超人的だし、集められた歴史的写真も貴重な脇役として存在感を主張している。
 最近の著者とクラマーという二人の老人が熱く抱擁している写真がカバーの袖にあるような個人的な思い入れの強さが遠慮なく打ち出されているにも関わらず、本書は仲間誉めの、ただの記念誌に堕してはおらず、クラマー・コーチの仕事ぶりは、その背景や現実の成果と失敗も含めて、客観的に、説得力を持って紹介され、考察されている。そしてその対極に、メキシコ後(クラマー後)の日本サッカーの低迷ぶりへの鋭い批判が提起される。東京五輪後にクラマーが提起した日本サッカーへの提案(本書の末尾に収録されている)は、リーグ戦の実施など実現したこともあるが、その多くは未だに読むに値する現実性を持っている。逆に言えば、四半世紀経ってもクラマーのアイデアを生かし切れない日本サッカーへのもどかしい気持ちが本書執筆の動機の一つなのだろう。「日本サッカー改革論」という副題も宜なるかなと思われる。
 80歳を優に過ぎたクラマーと著者が昔語りに終始して現状を見ようともしなければ、それはいわゆる老害に過ぎない。終盤少しそれに近づく危険性を孕みながらも、この二人のやり取りには未来への希望が感じ取れる。熟年の読者に「老いていくこと」を明るく捉えさせてくれる点でも価値ある一書と言えるだろう。

甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実

2007年度第18回ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞作品
甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実

1,575円(税込)
中村 計・著   新潮社


→ 1992年夏の甲子園で星稜高の松井秀喜が明徳義塾に5打席連続で敬遠され、チームは敗れた。ファンもマスコミも明徳を袋叩きにしたことが思い出されるが、なにせ15年も前のこと、風化しかかったこの「事件」を蒸し返したのは松井人気に乗ずるためか・・・と始めは思ったが、読んで行くとこの「事件」が過去の出来事ではなく、著者が引き出した「真実」は今もなお真剣に議論すべきスポーツのテーマであり、本書は日本のスポーツ界、特に「観るスポーツ」のあり方、そしてスポーツ・ジャーナリズムに対する痛烈な批判になっていることが見て取れた。
 当時の新聞は、明徳の選手たちが「甲子園なんか来なければよかった」と述懐したと報道した。事件のことが長く心に引っかかっていた著者は、この言葉の真相を突き止めることを思い立って取材を始める。明徳義塾のピッチャー河野、そして馬淵監督、松井秀喜、星陵の5番打者だった月岩、山下監督と、この試合に関わったキーパーソンともいえる人たちを細大漏らさずとりあげ、そのほかの明徳、星陵の各選手たちからの証言ともつきあわせながら、ジクソーパズルを完成させるように真相を検証していく構成はよく練られており、ぐいぐい引き込まれて読んだ。各章にはそれぞれストーリーテーマとなるタイトルが設けられているが、冒頭の語りはじめも巧みで、それぞれの章が、主人公を取り替えながら、あの夏の試合を起点にした多面的な物語を織り上げている。その中では松井の後の5番打者だった月岩の鬱屈した心境が描かれた章がことに印象的だった。
 取材が進むうちに、著者がはじめに抱いていた「独りよがりの思い込み」は見事に裏切られる。歴史に残ってしまった「来なければよかった」というつぶやきの主とされる青木捕手が終章で明かす「あれはメディアの言葉だ」という「真相」が十分な説得力を持って迫ってくる。選手たちが口にした「馬淵監督の松井敬遠策はみんな納得していた」「勝ったことを誇りに思う」という言葉に素直にうなづくことができる。
 問題をスポーツマンシップの観点からとらえてみよう。敬遠はルールで認められている正当な作戦である。しかも、本書にもあるように、勇気の要る、高度の作戦である。下手に使えば傷を広げてしまう。だからこそ、松井のあとの打者を抑える自信がなければ敬遠策は取れない、という他チームの監督の証言も出てくるのだ。あの日、明徳の校歌が流れ始めたとき、「帰れコール」が沸きあがり、校歌の演奏も選手や応援団が歌う声もかき消されてしまったという。このとき、高野連役員、主催の朝日新聞関係者はいったん演奏を中止させ、スタンドに向かってこうアナウンスすべきだった。「敬遠はルールで認められている作戦です。それをどう見るかは個々人の心の問題です。今は明徳の勝利を讃え、祝うのがスポーツマンシップです。お静かにお願いします」と。
 「観るスポーツ」のファンたちは「らしさ」を求めている。甲子園での「らしさ」は「高校生らしさ」であるが、往々にしてメディアはファンの思いを代弁するかのごとき傲慢さで、スポーツシーンに脚色を加え、勝手な「らしさ」を押しつける。このケースの場合も、マスコミが勝手に思い描き、演出した「高校生らしい」感想は実は存在しなかった。球児たちはそれほどナイーブな高校生ではなく、与えられた環境をエンジョイしていたのだ。
 総じて言えば、高校野球のゲームの表層の、さらにその奧にある選手や監督のホンネに迫り、マスコミの権力性を撃った秀作だと思う。残念ながら日本語の表現や表記に問題を感じるところはいくつもあるが、若い著者の今後に期したい。

 4年にわたる取材によって得た膨大な関係者の証言を基に、確かな筆致で書き下ろすノンフィクション作品です。

勝つことのみが善である - 宿澤広朗 全戦全勝の哲学

2007年度第18回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作品
勝つことのみが善である - 宿澤広朗 全戦全勝の哲学

1,680円(税込)
永田 洋光・著   ぴあ


→ 2006年6月、55歳の若さで急逝した三井住友銀行専務執行役員、宿澤広朗の半生を綴ったノンフィクションである。著者の永田氏はフリーのスポーツライターで、高校時代に経験したラグビーの影響だろうか、過去の著作も皆ラグビーテーマである。中でも「日本ラグビー復興計画」(阪急コミュニケーションズ)は宿澤本人との共著であり、密な関係を築いていたことを窺わせる。本書に関しては宿澤が亡くなった1年後に出版されたので、この目的のための本人取材はない。過去の積み重ねや引用と、家族を含む関係者への取材で構成されている。
 サラリーマンとして大会社の出世街道を突っ走った宿澤が常に注目を浴びてきたのはその切れの良い有言実行の生き様にある。それを実証するような数多くの名言が残されている。その言葉からうかがい知れる宿澤のパーソナリティは、妥協とは一切無縁の力強さに他ならない。このパーソナリティはラグビーの真髄あるいは美学に通じるのではないだろうか。だからこそ、著者自身をはじめとして多くの宿澤ファンが存在するのだと思う。本書で繰り返し紹介されるのは、そんな妥協を排除して前進する宿澤のダイナミズム。その先にあるものは「勝利」だ。昨年フランスで開催されたラグビーW杯に出場した日本代表はオーストラリア、ウェールズには大差で負けたが、フィジーに惜敗。カナダと引き分けて、その粘り強い闘いぶりから国際的に評価を得た。この(久しぶりの)成果を残念ながら宿澤は知ることはない。しかし、日本がW杯であげた勝利は未だに1991年の第2回大会で宿澤監督率いる代表チームがジンバブエから奪った一勝のみである。
 宿澤の55年の人生はその9割以上を占める仕事とラグビーの両面における栄光と、最終局面での悲劇性にある。著者はサラリーマン時代の支店勤務や海外転勤。結婚と家族との交わり、さらにPTA会長としての振る舞い。そして代表監督を含むラグビー現場での活躍を一点のかげりもなくポジティブに描いている。ある意味、理想的な男性像である。凄すぎる、と感じる人もいるだろう。一方その対極にあるネガティブ面が、会社役員に出世してからの激務、健康管理の欠如(飲酒、喫煙、一人暮らし、睡眠不足)と迷走する日本ラグビー界との軋轢である。
 宿澤が代表監督を引いてからの日本ラグビーは「失われた10年」と形容される。各国でプロ化と代表チーム強化が急速に進む一方で、日本では旧態依然とした大学OBの集合体のような体質から抜け出せず、継続性も発展性もないままラグビーの人気も実力も低下の一途をたどった。ちょうどその時期に重なるようにバブル崩壊で瀕死の状況に陥った銀行における宿澤の超人的な営業努力が続いていた。宿澤の貢献が企業を再生させたといっても大げさでないほどの実績を積んだ。宿澤わずか50歳前半の時である。
 宿澤はラグビーと仕事それぞれを切り分けて対応したのではなかった。どちらも全てであり、そこに矛盾は存在しない。スポーツ以外の描写も多いがそれもラガーマン宿澤そのものであり、スポーツ・ノンフィクションたらしめている。宿澤の行動を規定する信条は「プライド」と「責任」というキーワードでくくることが出来る。そして彼自身のライフスタイルあるいはアイデンティティを貫くのは「独自性」であると著者は言う。それらが宿澤をオープン化や代表の強化といった日本ラグビーの再生へ駆り立てたと思われるが、保守的な協会はかえって反発する。企業のようなビジネス・デシジョンが全く通じない世界だったのだ。
 宿澤に襲い掛かった心筋梗塞という病魔がどこからやってきたのかはわからない。しかし彼の死が多くの人に一時の落胆とその後の自覚を促したことは想像に難くない。著者はエピローグで、宿澤の「生きた時間」と「生きた密度」の積は誰よりも大きい、とし、私たちがあなたの描いた未来にたどりつくのは長い時間がかかるが、その間ゆっくり休養してほしいと結んだ。本書ではカバーできていないがW杯での代表チームの活躍も宿澤の意志を継いだ後輩たちの努力の結晶のひとつであろう。  リズム感にあふれた文体で、宿澤の人生そのもののようなスピード感があり、読者を飽きさせない。しかし最終章は、生き急いだかのような宿澤に引きずられたのか著者自身も書き急いだような印象があり、もう少しラグビー協会との対立の構図など判りやすく示したほうがよかったのではないかと悔やまれる。
 最後に、書名の「勝つことのみが善である」はリポビタンDのブランドでラグビーに協賛する大正製薬の社是である。宿澤はこれを座右の銘とし、「競技スポーツは勝つもの」と言う反面、実は本人が追い求めたのはプロセスにおける厳しさであり、徹底した完璧さであった。勝利至上主義ともとられないフレーズをあえてタイトルとしたことには違和感を覚える。宿澤がこれを知ったら「おい、違うぞ」と叱責されそうである。

日系二世のNBA―伝説のプレイヤーワッツ・ミサカとその時代

日系二世のNBA―伝説のプレイヤーワッツ・ミサカとその時代

1,600円(+税)
五味幹男・著


→ 2004年11月、田臥勇太が世界最高峰NBAの舞台に立った。
アスリートの海外進出が珍しくなくなった今日の日本においても、それがエポックメイキングであったことはいうまでもない。しかし田臥が最初の日本人NBAプレイヤーかといえば、厳密にはそうではない。じつは第二次世界大戦後まもなくNBAの前身にあたるBAAでプレーした日系二世(両親共に日本人)がいた。
ワッツ・ミサカはユタ大学で二度全米チャンピオンになり(44 & 47)、1947年にドラフト1位でピックアップされた。いまや黒人プレーヤーが多く活躍するNBAにおいて、リーグ初の非白人プレーヤーとしてコートに立ったのも彼だった。
それは奇しくも、ジャッキー・ロビンソンがベースボールの世界で人種の壁を破った年と一致している。

 ミサカが青春を過ごしたのは「戦争」という風が吹いていた時代だった。パールハーバーを契機に行われた日系人に対する人種隔離政策。ミサカはそんななか、マジソンスクエアガーデンで行われた大学バスケ選手権決勝で賞賛の嵐を浴びている。またその後ミサカは、GHQの一員として、祖国の地も踏んだ。
反日感情吹き荒れる、戦中・戦後のアメリカで、彼が二度にわたって学生チャンピオンに輝けたのはなぜか。そしてドラフト1位でNYニックスに入団しながら、わずか3試合の出場機会しか与えられず、13日間で解雇されたのはなぜか。

 4年にわたる取材によって得た膨大な関係者の証言を基に、確かな筆致で書き下ろすノンフィクション作品です。

バリュースポーツ

バリュースポーツ

2,400円(+税)
海老塚 修+スポーツデザイン研究所


→【書評】
 「バリュースポーツ」とは聞きなれない表現だ。

 じっくり「スポーツ」を考えると、この文化の資源力、現代にあって並大抵ではない量であり、質であると気づかされる。

 著者・海老塚修さんは、そこに注目して、さまざまなビジネス展開をしてきた豊かな経験者、スポーツマーケティングの第一人者である。

 スポーツほど価値を持ち、重宝であり、手軽なエネルギーはなかなかない。

 企業にとっても、地域にとっても、国際社会にとっても、かけがえのないツール。

 著者が手がけたビッグイベントは、自身のスポーツへの価値感を伴って、いっそうバリューを高めた。

 身近にその行動を見る機会も多く、そのたびに、彼が単純な「スポーツ仕事人」ではないことを知った。

 情熱をこめて掲げた「バリュースポーツ」というネーミングは、海老塚さんにして初めて命名できる。

 時に生々しさを伴って描かれる多彩な事例の説得力が、いっそう興味をつのらせる。

 スポーツのバリュー。読み終わって考えさせられる部分を残すところが、この書をおすすめする最大のポイントでもある―。
                        杉山 茂/スポーツプロデューサー

誇り―ドラガン・ストイコビッチの軌跡

誇り―ドラガン・ストイコビッチの軌跡

600(税込)


→フィールドの妖精“PIXY”ドラガン・ストイコビッチ。人々を魅了する華麗なプレー。だが、その半生から浮かび上がるのは、政治に翻弄された祖国ユーゴスラビアへの熱き想いと誇りだった。来日当初「乱暴者」のレッテルを貼られた、彼の真の姿がここにある。過酷な運命を乗り越え世界を舞台に光り輝く、憂国のフットボーラーの軌跡を綴るヒューマン・ノンフィクション。一章分の書き下ろしを追加し、貴重な初公開写真も収録。

2006FIFAワールドカップドイツ大会公式ガイドブック

2006FIFAワールドカップドイツ大会公式ガイドブック

1,500 (税込)


→2006FIFAワールドカップTMドイツ大会公式ガイドブックは日本で発売される唯一のFIFA公式ガイドです。
2006年の「顔」・・・・ロナウジーニョ・中田英寿・バラック・朴智星・ジェラード
日本代表公式インタビュー・・・・ジーコ監督・宮本恒靖・柳沢敦・中村俊輔
出場32ヶ国ガイド・・・・完全データ&選手640人写真入
開催12都市ガイド・・・・各都市アンバサダーナビつき
ワールドカップの歴史・・・・ブライアン・グランビルかく語りき

実録メジャーリーグの法律とビジネス

■実録メジャーリーグの法律とビジネス

ロジャー I.エイブラム (著), 大坪 正則 (翻訳), 中尾 ゆかり 1,890 (税込)


→プロスポーツの頂点であるメジャーリーグの、草創期から今日まで発展してきた過程を、法律・ビジネスの面に即して解説。選手の保留制度、独占禁止法免除、仲裁制度など、スポーツビジネスに携わる人に必須の知識が満載。

素晴らしき野球小僧―白球を追い続ける男たちの詩

■素晴らしき野球小僧―白球を追い続ける男たちの詩

岡 邦行 (著) 1,995 (税込)


→男が魅せられてやまないもの、野球

なんの筋書きのないドラマに惹かれ、今日もまたグラウンドに向ってしまう。そんな永遠の野球少年たちに捧ぐ!

シダックス時代の野村監督を陰から支えた「生涯−マネージャー」がいる。
ノムさんに先駆けてアマチュアで自らの野球理論を記し、選手に配った大学野球監督がいる。
プライベート・リトル・ベースボール・スト−リー

   
著者プロフィール:ノンフィクション作家。1949(昭和24)年、福島県生まれ。法政大学社会学部卒。出版社勤務を経て、フリーのジャーナリストに。スポーツを中心に政治、芸能なども取材。スポーツは野球を中心に、サッカー、ゴルフなどをプロ、アマ問わずに取材し続けている。99年、日本大学野球部監督・鈴木博識を密着取材した「野球に憑かれた男」で第3回報知ドキュメント大賞を受賞。著書に「長嶋茂雄をつくった男−昭和34年6月25日天覧試合陰のヒーロー」「プロ野球 これがドラフトだ!」「KAZU(カズ)とJリーグ」「神様ジーコの遺言(メッセージ)」「池永正明と、その時代」などがある。


ザ・ゴルフ―ゴルフ名言集

■ザ・ゴルフ―ゴルフ名言集

久保田 滋 (編集) 1,365 (税込)


→すぐれた名言、格言には100冊の本をしのぐ力がある―トミー・アーロン

ゴルフは常に自分との戦い。古今東西の名選手の言葉には、ビギナーからベテランまで、全てのゴルファーに共通するゴルフの真理、そして人生を戦い抜くための知恵がある!

 
著者プロフィール:1937年生まれ。北海道札幌東高校卒。青山学院大学中退後、トヨタ系重整備工場に勤務。63年、自動車保険損害調査人で保険業界に参入。72年、独立し一匹狼の特殊調査員として活躍。91年、「保険金奪取」にてデビュー。著書は小社刊「紙の柩」「クロスオーバー」「Zの神話」ほか、「保険喰い」(廣済堂出版)、「ルノアールを盗んだ男」(角川書店)など多数。ゴルフ暦40年。関東ゴルフ連盟オフィシャルハンデ3。関東オープンの予選通過をはじめ、各種アマチュア大会に出場。


2006年度ミズノスポーツライター賞受賞作品
南の島の甲子園―八重山商工の夏

■南の島の甲子園―八重山商工の夏

下川 裕治 (著) 双葉社 1,470 (税込)


→2006年度第17回「ミズノスポーツラーター賞」最優秀賞受賞作品
 2006年春、夏の甲子園に連続出場を果たした沖縄県代表八重山商工は、その異色のスタンドの応援風景、伊志嶺監督のユニークな人柄や采配、小学生時代からの同級生という離島の子どもたちだけのチーム構成など、本土の高校野球部にはない独特の味わいをもつチームとして、話題と好感を集めた。本書は、この不思議なチームに魅せられて、その中心にいる伊志嶺吉盛監督の野球人生を追ったルポであり、また、八重山商工野球部を通して見た沖縄(八重山)文化論、もしくは風土紹介書とでもいうべき著作である。著者によれば、もはやヤマトの国には失われた、いいかげんさや激しさややさしさを包み込んだ人間的な生の面白さが、島には満ちあふれているらしい。八重山商工の野球は、その表現形態の一つともいえる。

 著者の父親は長野県の県立高校の教師で、野球部の監督だった。日曜日などない、父親抜きの家族旅行しか経験のない著者は、伊志嶺に父の姿を重ねあわせる。その著者の述懐がたびたび挿入されることが、本書に奥行きを与えている。また文中登場する人たちの方言の「?さー」といった言い回しのやさしさや、文章全体からたちあがってくる島独特の「ゆるい」感覚には、なんともほのぼのとさせられ、いろいろな要素の入った楽しく読める魅力的な作品である。

ラストサムライ―片目のチャンピオン武田幸三

■ラストサムライ―片目のチャンピオン 武田幸三

森沢 明夫 角川書店 1,575(税込)


→2006年度第17回「ミズノスポーツラーター賞」優秀賞受賞作品
 本書は、元新日本キックボクシング協会ウェルター級王者、元ラジャダムナンスタジアム・ウェルター級王者であるキックボクサー、武田幸三を描いた人物ドキュメンタリーである。武田の闘いぶり、見に来てくれるファンへのありがとうの気持をKO勝負で見せたいというサービス精神、そしてほとんどサディスティックにさえ感じられるほど、己の体力・精神力の限界に挑む徹底したトレーニングなどが無駄のない、軽快な文章で描かれている。

  武田幸三を一言で表すなら、「ひたむき」もしくは「愚直」となる。著者は、武田の礼儀正しさ、迷いのない静かな物言い、常軌を逸したトレーニング、そして壮絶な格闘に、「日本人がいつの間にか忘れていた気高さやひたむきさ」を見て、それを「侍」と表現した。それには納得できる読者でも、それを「サムライ」とカタカナ書きにし、大ヒット映画を彷彿とさせる『ラストサムライ』というタイトルをつけたことには、違和感を覚えざるを得ないのではないか。

 帯には作家・伊坂幸太郎氏が若い読者に本書を薦めるメッセージがあるが、道を見失いそうな少年や自信をなくした親たちにぜひ推薦したい本である。教育基本法の改正をはじめとして教育にかかわる問題が山積している現在、拍手を送りたい作品である。

 
2005年度ミズノスポーツライター賞受賞作品
オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

■オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

木村 元彦 (著) 1,680 (税込)


→2005年度第16回「ミズノスポーツラーター賞」最優秀賞受賞作品
本書は3つのことを教えてくれる。第1にサッカーにおける監督の役割。サッカーというゲームの面白さがどこにあるのかが改めて示され、それを最大限に引き出すことができるのが本物の監督だということが理解できた。第2にオシムという希有な人物の半生記を通じて、国家と個人ののっぴきならない葛藤を考えさせられる。民族対立のすさまじさには慄然とさせられるが、それを超える力としてスポーツにかすかな希望を感じ取ることができる。本書はすぐれたサッカー指揮官の伝記である以上に、文化人類学的フィールド・スタディの書であるとも言える。 そして第3に「言葉の力」。オシムの繰り出す言葉が選手の身体に入っていって、現実を動かしていく。深刻な対立の中でユーモアが果たす重要な役割が見えてくる。そこで忘れてならないのが通訳の間瀬秀一である。かれこそ「言葉の力」をもっともよく理解している、オシムの言葉の「助産夫」に違いない。本書はこの3つのテーマが相互に補い合いながら展開され、リスクをあえて引き受けて自分なりの人生をつくっていくことにこそ生きる意味があるというメッセージが浮かび上がる。 著者は現地取材も交えてオシムを巡る人物の証言を広く集めている(巻末に取材協力者のリストがある)し、問題の発言や行動には裏を取る努力や別の見解を併記することを忘れていない。著者のオシムへの思い入れは深いものがあるが、適度な距離を取ってオシムを客観的に見ている。構成が巧みで文章にリズムがあり、情景描写も的確で読みやすい。

甲子園への遺言―伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯

■甲子園への遺言―伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯

門田隆将 1,785 (税込)


→2005年度第16回「ミズノスポーツラーター賞」優秀賞受賞作品
のべ30人以上のタイトルホルダーを育てあげた天才打撃コーチが、教え子たちの心の中に遺したものとは。「読みました。泣きました。こんなにすばらしい野球人がいたことを、1人でも多くの方に知ってほしい」長嶋茂雄氏大絶賛!平成16年夏、1人の高校教師が膵臓癌で亡くなりました。還暦を迎えて半年足らず、まだ60歳でした。その高校教師には、特異な経歴がありました。なんと約30年にわたって、プロ野球の打撃コーチを務めたのです。渡り歩いた球団は、南海、ロッテ、ヤクルト、ダイエー、中日、オリックス、そして千葉ロッテ。野球の質が、パワーから技術へ、そして諜報戦から総合戦へ、さまざまに形状を変えていく中、彼は常にその最前線にいました。そして、7つの球団で独特の打撃理論と卓抜した洞察力を駆使して選手たちの指導をおこない、時に相談に乗り、汗と涙を共有しながら、気がつけば、のべ30人以上のタイトルホルダーを育て上げていました。しかし、その伝説の打撃コーチは、50代半ばで一念発起し、高校教師になるために通信教育で勉強を始めます。そして5年かかって教員免許を取得し、社会科教師として教壇に上がり、「甲子園」を目指しました。その人の名は、高畠導広さんといいます。

球界再編は終わらない

■球界再編は終わらない

日本経済新聞社 1,575 (税込)


→2005年度第16回「ミズノスポーツラーター賞」優秀賞受賞作品
2004年6月「近鉄がオリックスに譲渡交渉」の新聞報道から始まった球界再編劇は、かねてから水面下で進んでいた「1リーグ制」構想を浮上させ、国民的な論議を巻き起こした。一連のめまぐるしい展開は、同時進行で伝えられる当時の新聞報道などではよく理解できない人が多かったと思われるが、本書は経済紙の記者が組織的に取材をしてまとめ上げただけに、球団統合と1リーグ制への移行を必至と考えていた渡辺恒雄氏らオーナー側が描いたシナリオや舞台裏の動き、人間模様事者の経済界でのつながりなどを丹念に掘り起こしており、全体像が見えてくる。冒頭の導入部に紹介される近鉄の命名権売却案のお話も、本当の狙いは球団経営の苦境を知らしめることにあったというストーリー展開はなるほどと思わせる説明であり、楽天・三木谷社長に関する「『後出しじゃんけん』の真相」の項もいい。三木谷社長は早くに球界のある重鎮から近鉄買収を打診されたが、赤字の大きさにあきらめ、楽天執行役員の小沢隆生が知人の選手会顧問弁護士・石渡進介をライブドア・堀江貴文社長に紹介して、ライブドアが新球団に名乗りを上げる展開になったという。三木谷は状況の変化で球界進出を決意、結果的に「後出し」の汚名を着たというのだ。歴史的なできごとの貴重な記録として評価できる。楽天やソフトバンクのような新規参入企業の勝算についても、企業の業績を踏まえて的確に分析しており、「プロ野球経済学」としても興味深い読み物になっている。


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