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vol.341-3(2007年3月2日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
卓球界に何が起きているのか

 5月にクロアチア・ザグレブで開かれる世界卓球選手権の日本代表がこのほど発表された。最も注目されたのは、卓球界のスーパースター、福原愛(青森山田高−早大)ではなく、14歳になったばかりの中学2年生、石川佳純(ミキハウスJSC、大阪・四天王寺羽曳野中)だった。世界選手権の時点で石川は14歳3カ月で、福原の最年少記録(14歳6カ月)を上回る。男子でも中学3年生の松平健太(青森山田中)が代表入りしたことを考えると、必ずしも石川だけが特殊な存在とはいえないようである。福原ばかりに注目が集まってきた卓球界に今、何らかの「地殻変動」が起きているのだろうか。

 石川は山口市の出身。両親ともに元卓球選手で、小学校1年から卓球を始めたそうだ。元国体選手でもある母親は、娘の才能を伸ばそうと自宅に卓球場を作り、石川は母の手ほどきを受けながら、実力を伸ばしてきた。卓球を始めてすぐに全日本選手権のバンビの部(小学2年生以下)に出場し、6年生の時には全日本選手権で高校生や大学生を倒して「愛ちゃん2世」と呼ばれた。そうして早くから才能を開花させた石川は、中学から大阪へ移り、かつては福原もいたミキハウスJSCに所属。寮生活を送りながら、学校に通っている。

 松平は石川県七尾市の出身で、卓球専門店を営む父親の影響で4歳から卓球を始めたという。2人の兄や妹も卓球をしており、そうした環境の中で三男の松平も小学生時代から腕を磨き、強豪・青森山田中学へ進学した。

 2人の経歴をこうして調べてみると、中学から親元を離れ、より専門的な環境に飛び込んでいることが分かる。逆に見れば、強豪チームや強豪校は、才能ある選手を、すでに小学生の段階で発掘しているということかも知れない。

 日本卓球協会は2001年秋、小学生を対象にした「ホープス・ナショナルチーム」を立ち上げた。小学生の全国大会でベスト16に入った選手たちを対象に体力テストなどを行い、選手を選考するエリート養成システム。年数回の合宿を行い、最近では中国合宿も行っているそうだ。

 石川も松平もこのシステムに組み込まれて育った選手であり、今年の全日本選手権男子シングルスで、17歳7カ月の史上最年少優勝を果たした水谷隼(青森山田高)はその一期生である。水谷は才能を見出され、中学1年の時に静岡から転校して青森山田中へ「卓球留学」。中学2年生からはドイツに派遣され、今ではプロのブンデスリーガ、デュッセルドルフに所属している。世界選手権は今回が2度目だ。

 卓球界は「英才教育」を徹底して推し進め、早くもその手ごたえを感じていることだろう。小学生から最短コースで鍛え上げられた選手たち。彼らが国際的な実力を身につけ、今後の日本卓球界をリードしていくことは間違いない。ただ、アスリートとしての「成長期」は一様ではなく、トップ選手への道も英才コースだけではないはずだ。「未完の大器」「遅咲きの大輪」。そんな言葉で表現される選手がいる。遠回りしてもトップにたどりつける環境も大切だ。いや、その方がずっと大切ではないのか。

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