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100号記念メッセージ

■vol.103 (2002年7月10日発行)

【大島裕史】 ヒディンク監督が韓国に遺したもの
【賀茂美則】 人口・経済的視点からみたワールドカップ
【谷口源太郎】 スポーツの政治性
【糀 正勝】 パンチョ伊東さんのこと その1
【松原 明】 伊東一雄氏の死
【杉山 茂】 強すぎるウイリアムズ姉妹へのため息

■ 今週のアンケートはこちら! ■


◇ヒディンク監督が韓国に遺したもの
(大島 裕史/スポーツジャーナリスト)

ワールドカップの余韻が残る中、4試合で12万人を超えるという、Kリーグにおける1日の最多観客動員数を記録した7月7日、韓国をベスト4に導いたヒディンクが母国オランダに帰国した。在任中は、代表合宿やKリーグの試合の視察にも同席し、物議を醸していた愛人のエリザベスも、今ではヒディンクの寂しい外国生活を支えたとして評価され、仁川国際空港では、ヒディンクと一緒にスポットライトを浴びての帰国となった。

今回のワールドカップでヒディンクは、その手腕が改めて世界的に評価された。しかし、彼が韓国代表監督に就任していた1年半の間、韓国内での評価は決して高いものではなかった。

1年前に行われたコンフェデレーションズカップの対フランス戦、さらにはその2ヵ月後の欧州遠征における対チェコ戦での相次ぐ5−0の惨敗。今年初めに行われたゴールドカップでもぱっとせず、非難の世論にさらされた。加えての愛人問題は、非難をさらに激しくさせた。3月になっても、相当にきついフィジカルトレーニングを科し、選手の動きは鈍かった。ギリギリまで多くの選手を、様々なポジションで試していることに対しても、組織力を高めるため、早くベストイレブンを決めるべきだという批判もかなりあった。

ヒディンクは、韓国が2000年のシドニーオリンピックで1次リーグ敗退、日本が優勝したアジアカップで3位に甘んじるという危機的状況の中、最後の切り札として、公費を投入してまで招いた監督である。それだけ期待も大きく、半面、彼に対する視線も厳しかった。Jリーグなどで外国人の指導者を受ける機会の多い日本と違い、外国人慣れしていない韓国では、彼のやり方への戸惑いも大きかった。

しかしながら、ヒディンクの指導の一つひとつがいかに理にかなったものであるかは、ワールドカップの実戦で見事に証明された。そして、韓国が勝ち進むにつれ、ヒディンク人気は信仰に近いものになっていった。

その一方で、韓国サッカーの躍進は、韓国社会の問題点も映し出すこととなった。ヒディンクを支持する若者たちは、「韓国サッカーの問題は、選手ではなく指導者であることが分かった」という言葉を口にした。彼は、学閥などの人脈による人材登用や、年功序列の上下関係といった悪習を廃し、実力主義を貫き成功した。韓国サッカー界の悪習は、韓国社会の問題点でもある。したがって、若者たちのこうした言葉は、自分たちより上の世代への批判にも聞こえる。

こうした中、企業などでは、ヒディンクの成功に学ぼうという動きが活発である。こうした動きがうまくいけば、韓国社会も変ってくるだろう。しかし、失敗すれば、若者の社会に対する不満は、一層高まるに違いない。

韓国チームの活躍は、かつて経験をしたことのない一体感を韓国人にもたらした。けれども、韓国人すら夢にも思わなかった大躍進は、韓国社会のあり方そのものを問い直そうとしている。

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◇人口・経済的視点からみたワールドカップ
(賀茂美則/スポーツライター)

金子達仁氏だったと思うが、「今後は人口の大きな国がサッカー大国になる」という説を述べていた。

つまり、トレーニング・システムが整備されれば、優れた才能を集められる大国が有利になるというわけだ。

13億という世界一の人口を誇る中国はワールドカップ初出場を果たしたし、FIFA公認の「最下位決定戦」を戦ったブータンと英領モントセラトの人口はそれぞれ、60万人と8000人であり、ブータンが4対0で勝ったことなども極端な例として挙げられよう。

筆者は今回のワールドカップをデータに使い、この説の真偽を検証することにした。

人口に加えて、中津江村へのキャンプインが遅れた背景に金銭トラブルがあったという噂の絶えないカメルーンなど、豊かでない国はギャラの支払いをめぐって結束力が低下するとも言われる。さらにトレーニング制度を整備し、優秀なコーチを雇うためには国としての経済力も必要なので、出場国の人口の他、年間平均所得を考慮する必要がある。

したがって、出場32カ国の総人口、年間平均所得、および予選リーグの成績を表にしてみた。

国名
総人口
総人口
順位
平均所得
平均所得
順位
予選リーグ
成績
中国
1,275
(1)
840
(29)
×
アメリカ
281
(2)
34,260
(1)
ブラジル
168
(3)
3,570
(22)
ロシア
145
(4)
1,660
(26)
×
日本
127
(5)
34,210
(2)
ナイジェリア
115
(6)
260
(32)
×
メキシコ
97
(7)
5,080
(18)
ドイツ
82
(8)
25,050
(5)
トルコ
67
(9)
3,090
(23)
イングランド
60
(10)
24,500
(7)
フランス
59
(11)
23,670
(8)
×
イタリア
58
(12)
20,010
(10)
韓国
47
(13)
8,910
(14)
南アフリカ
44
(14)
3,020
(24)
×
スペイン
40
(15)
14,960
(11)
ポーランド
39
(16)
4,200
(20)
×
アルゼンチン
37
(17)
7,440
(15)
×
サウジアラビア
20
(18)
6,900
(16)
×
カメルーン
15
(19)
570
(30)
×
エクアドル
13
(20)
1,210
(28)
×
ベルギー
10
(21)
24,630
(6)
ポルトガル
10
(22)
11,060
(12)
×
チュニジア
10
(23)
2,090
(25)
×
セネガル
10
(24)
500
(31)
スウェーデン
9
(25)
26,780
(4)
パラグアイ
6
(26)
1,450
(27)
デンマーク
5
(27)
32,020
(3)
クロアチア
5
(28)
4,510
(19)
×
コスタリカ
4
(29)
3,960
(21)
×
アイルランド
4
(30)
22,960
(9)
ウルグアイ
3
(31)
6,090
(17)
×
スロベニア
2
(32)
10,070
(13)
×

(※注:人口単位は100万人、平均所得は米ドル、予選リーグ成績は○が通過、×が敗退)

この表からわかるように、総人口が上位16番目までに入っている国のうち、10カ国(62.5%)が決勝トーナメントに進出している。平均所得を見ると、上位16カ国のうち、11カ国(68.75%)が予選リーグを通過している。

全32チームのうち16チーム(50%)が決勝トーナメントに残っているので、それに比べればどちらの割合も高いことがみてとれる。

今回のワールドカップに関する限り、人口が多く、豊かな国ほど成績がいいのだ。

この発見に照らし合わせてみると、日本と韓国の両方が決勝トーナメントに進んだのは不思議ではない。両国とも、人口、所得の両面で平均以上であるからだ。

人口、所得ともに平均以上である国は8カ国ある。日韓の他にはアメリカ、ドイツ、イングランド、フランス、イタリア、スペインである。フランス以外はすべて決勝トーナメントに進んでいることを考えると、フランスの予選敗退が人口・経済的な面から見ても大きな番狂わせであることがわかる。

逆に驚きをもって迎えられたアメリカの決勝トーナメント進出も驚くにはあたらないということになる。参考までに、アメリカ、韓国と予選で同じ組で優勝候補と言われながら予選敗退したポルトガルは人口が1000万人の22位であった。

その反対に、人口、所得共に平均以下である国はやはり8カ国であるが、そのうち予選リーグを勝ち抜いたのはわずかに2カ国。パラグアイとセネガルである。このことからも、セネガル旋風は驚くべきことであり、ここで展開されている「サッカーの人口・経済的理論」から見る限り、セネガルと言えども今後は苦戦が予想されると言えよう。

もちろん、人口と経済的な豊かさ=ワールドカップの好成績、というわけではない。例えば、今回優勝したブラジルの平均所得は32カ国中の22位である。

スポーツには番狂わせがつきもの。50年たっても、100年たっても、草サッカー出身の英雄は存在し続けるだろうし、小国による旋風は巻き起こるだろう。そうでなければ、誰もサッカーなど見なくなる。

番狂わせもスポーツの醍醐味の一部なのであるから。

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◇スポーツの政治性
(谷口 源太郎/スポーツジャーナリスト)

日韓共催という視点から今回のワールドカップを評価すれば、不成功、というしかない。

もともと、中央省庁の天下り官僚に牛耳られたJAWOC(日本組織委員会)は、共催の意義を認めようとしなかったのだから共催が成功することなどあり得えなかった。

歴史教科書問題や小泉純一郎首相の靖国神社参拝が韓国の人たちの反日感情を煽っても、JAWOCは、何一つ反応を示さなかった。また、平和憲法を踏みにじって「戦争をする国」へと向かう有事法制案が国会に持ち込まれても一切我関せず、の姿勢だった。要するに、JAWOCにしろ、日本サッカー協会にしろ、小泉首相の進める国家主義を支持しているということだ。

フランスの大統領選に極右の人物が立候補したことにジダン選手をはじめフランス代表チーム全員が強硬に反対を表明した。スポーツに関わるものとして平和や人権を脅かすものに対して、「NO」の意思表示をするのは、当然であろう。そこに、スポーツの積極的な意味での政治性がある。

日本のスポーツ組織の首脳陣の多くは、未だに象徴天皇制を崇める保守反動の思想を持ち、スポーツを通しての平和主義を阻害しているのだ。彼らは、常套句のように「スポーツに政治を持ち込むな」という。しかし、そういうことで、自らが保守反動の政治的な役割を果たしていることを自覚していない。そうしたスポーツ組織のリーダーたちは、再び戦争に協力する過ちを繰り返すであろう。

今や世界的に新たなナショナリズムが台頭しさまざまな紛争を引き起こしている。そうしたなかで国際的なスポーツイベントを国威発揚に利用しナショナリズムを煽る為政者は後を絶たない。ワールドカップは、ナショナリズムを糧にして巨大化したともいえる。

今こそ、ナショナリズムを乗り越えるためにスポーツと平和について真正面から議論を起こすべきである。

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◇パンチョ伊東さんのこと その1
(糀 正勝/インター・スポーツ代表)

日本プロ野球は「セントラル・リーグ」と「パシフィック・リーグ」の2リーグから成り立っている。セ・リーグ、パ・リーグともに6球団から構成され、年間140試合を戦う。一般的には、12球団が日本プロ野球というひとつの運命共同体という統一組織であり、共通した理念によって運営されていると思われているが、その内実は必ずしもそうでない。

1950年の両リーグの結成以来、日本プロ野球はセ・リーグに対するパ・リーグの戦いの歴史でもあった。1980年セ・リーグ観客動員数は約1,032万人、パ・リーグは約580万人だった。つまり、同じプロ野球でもセ・リーグとパ・リーグでは2対1の観客動員数の格差があった。観客動員数の格差はセ・リーグが圧倒的に強く、セ・リーグの野球が面白からかというと必ずしもそうでもない。むしろ、プロ野球ファンの間では、人気の「セ」、実力の「パ」と評価されていた。

セ・リーグの人気の原因は、読売ジャイアンツだ。ジャイアンツの人気は、親会社の読売新聞、スポーツ報知、日本テレビ等のメディアグループの圧倒的な情報発信力に支えられていた。ジャイアンツ戦が毎試合放映され、試合結果がスポーツ紙の一面を飾った。セ・リーグの球団経営はジャイアンツ戦の放映権料が重要な収入源であった。セ・リーグの5球団は、ジャイアンツとの運命共同体の関係にある。

パ・リーグは1981年に<エキサイティング・リーグ「パ」>という年間キャンペーンをスタートさせた。6球団の監督全員が重厚な鎧兜の装束に身を包んで、パ・リーグ開幕を宣言する。実にカラフルなポスターが各スタジアムやターミナル駅に掲載された。この熱パ・キャンペーンは約10年間、サッポロビールと博報堂の協力によって継続された。1990年の観客動員数はセ・リーグ約1,202万人、パ・リーグ約861万人まで格差が縮まった。このキャンペーンを推進したパ・リーグの広報部長は、パンチョこと伊東一雄さんだった。

伊東さんは毎年行われるプロ野球の「ドラフト会議」の名司会者でもあった。幾多の高校球児、大学生、社会人選手が、伊東さんの読み上げる「第1回選択指名選手 ロッテ ・・・・」という声に胸を弾ませたことだろう。全国プロ野球ファンにとっても注目の舞台であった。

2002年7月4日午前6時45分、パンチョ伊東さんは68歳の生涯を安らかに閉じた。

私は1988年1月、当時勤務していたロッテの社内人事で、アイスクリームの新製品開発からロッテ・オリオンズの球団総務への異動辞令が交付された。最初の仕事が川崎球場の観客動員に関するプロジェクトだった。パ・リーグ6球団は1981年から始まった<エキサイティング・リーグ「パ」>キャンペーンの第一目標である1,000万人観客動員達成に全力を挙げていた。そのキャンペーンの中心メンバーがパ・リーグ振興委員会だ。定例のパ・リーグ振興委員会で、初めて広報部長のパンチョ伊東さんに出会った。

パンチョ伊東さんのもうひとつの顔は、日本で一番のメジャーリーグ通といわれていた。パンチョさんはメジャーリーグ組織(コミッショナー事務局、ア・リーグ、ナ・リーグ事務局、メジャーリーグ球団幹部等)に独自の素晴らしいネットワークを有していた。また、メジャーリーグ球団経営に関する豊富な情報をもち、日本プロ野球振興に関するアイデアを暖めていた。しかし、閉鎖的な古い体質を有する日本プロ野球界では生かされなかった。――(次号に続く)

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◇伊東一雄氏の死
(松原 明/東京中日スポーツ報道部)

日本一の大リーグ通だった伊東一雄氏が亡くなった。1年余の闘病生活の末、ついに再起できず、隆盛の大リーグを横目に去ったのは、どんなに、残念だったろうか。

今こそ、大リーグは日本人ウエルカムになったが、伊東氏が渡米し、開拓した30年も前は大変だった。アメリカの4大プロスポーツは「日本人が何しに来るんだ」と冷ややかな態度で相手にしなかった。

まだ成田空港もなく、羽田空港から1日ががりで米国に渡り、大リーグを開拓するということは、未知の世界を開拓する決心と、こちらを理解させる努力と忍耐がないと到底出来ることではない。

ちょうど、パ・リーグ広報部長という役職で大リーグとパイプを作るにはいい立場にいたが、独力で英会話をマスターし、勤務の都合を付けては渡米した伊東氏はこまめに贈り物をし、相手の希望も聞いてやり、「日本は大リーグから広く学びたい」ことを伝えた。

私も伊東氏が道筋を付けたあとに渡米できたのは、どんなに感謝したか分からない。今の若い記者は先人の苦労も知らず、気ままにふるまっているが、「決められたルールはきちんと守りなさい」と、伊東氏はいつも諭した。

パンチョの愛称は阪急で怪物、と言われた、ダリル・スペンサーが名付け親、だという。これはアメリカでも知れ渡り「パンチョが亡くなったとは」と何人にも聞かれた。

パ・リーグの職を捨ててまで大リーグに没頭し、橋渡しに命を捧げた伊東氏。「まさか、自分がホームプレートの向こう側から眺めるようになるとは。みなさん、さようなら」の最後の言葉は胸がつまる。

日本選手がこれほど活躍できるのも、伊東氏の開拓のおかげだ。

まだ、これからなのに。惜しい人材を失った。

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◇強すぎるウイリアムズ姉妹へのため息
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)

あれほど期待していたカードなのに、こうも立て続けに“実現”すると、いささか興ざめという。ファンは気ままである。

女子テニスのビーナス(姉)とセリーナ(妹)のウイリアムズ対決だ。

つい1年ほど前は、やがて姉妹による頂上決戦、と待望していたが、昨秋の全米で初顔合わせのあと、今年6月の全仏、そして、先週のウインブルドンとグランドスラム最近4大会のうち3大会が、このカードになると、さすがに鮮度と熱狂度は落ちる。

「姉妹同士」の興味が逆作用し、ウインブルドンでも、伝統のコートを飾るにふさわしい熱戦を望めるだろうか、との声が上がっていたとされる。

ちなみに、姉妹が、この大会の女子シングルスのタイトルを争うのは118年ぶりだった。

2人のウイリアムズは若いが屈指のプロ。3大会とも凄まじいばかりの気迫をネット越しにぶつけあい、全力を込めた打ち合いに、肉親同士のやりにくさなど、微塵も感じさせぬのだが、やはり、どこかに見る目を割り引きさせる。

思い出すのは若・貴兄弟による平成7年11月場所の優勝決定戦だ。世間は沸きに沸いたが、両者は「1度はいいかもしれないが・・・」と語り、「もう2度とは・・・」のニュアンスだった。ファンも同じ思いに駆られたはずだ。

テニスと大相撲を比較するのはナンセンスだろうが、ウイリアムズ姉妹も、この先まだ"対決"が続くようだと、ぎこちなさの覗くシーンが多くなるのでは、と気になる。

2人の強さが、けた違いなだけに、その意味で、現代のグランドスラムの決勝は、姉妹の激突が、もっともふさわしい、ということになる。

彼女たちの試合は、いつも、互いが初めて強敵に出会ったような迫力に満ちた攻防を展開し、超一流の内容を描き出しはする。

だが、姉妹全盛、姉妹最強が、いつまでも看板であっては、女子テニスの前途は明らかに盛り上がりを欠くことになる。

ファンの待望した対決は、とりあえず3大大会で、世界中を堪能させた。

一廻りする今週の全米では、姉妹を追い込むようなほかのプレイヤーたちの奮起が、何としても欲しい――。