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vol.333-2(2006年12月27日発行)
市川一夫 /スポーツライター
真冬に水着の異変
   〜世界bPブランド「SPEEDO」国内ライセンシーが変わる〜

 五輪の歴史を鮮烈に彩り、スイマー達が愛用した競泳用スーツの世界1ブランド「SPEEDO」のライセンス契約が、来年5月をもってミズノの手を離れ、三井物産に移り、ゴールドウインがサブライセンシーとして製造・流通を担当することが明らかになった。

 12月15日、期せずして両社はそれぞれプレスリリースを通じ、この契約についてコメントを発表した。

 まずミズノだが、契約期間満了ではなく早期解消であること、創業100年を迎え「新100年ブランド」への統合を推進する為であること、自社ブランド戦略の推進によりグローバル展開が可能になることを強調し、業績への影響は現時点では予測できないことなどをあげている。

 一方ゴールドウインは、グローバルブランドの「SPEEDO」所有者であるスピード・インターナショナル社(本社:ロンドン)、三井物産と三社による強力なグローバルアライアンスを組み、商品開発・製造・販売に注力することを表明した。

 ミズノ同様、業績への影響は事業戦略が確定次第発表すると述べている。

 両社の公式発表からは、複雑な事情を知ることはできないが、この一件は、ミズノの抱える事情が大きな作用を及ぼしていることが推測される。

 歴史を紐解いてみよう。戦前より美津濃(当時)は、商標の一つであったカップ印、メルマン水着などを販売していた。ところが、1964年東京五輪において、水泳のメダルを二分した米、豪チームが着用したナイロン素材、国旗をモチーフにした鮮やかなプリント水着が話題をさらい、無地一色の時代が終わったことに衝撃を受けた。そこで、早速ナイロン素材大手の東洋レーヨン(現在のトーレ)の仲介のもと、米豪チームに供給していたSPEEDO社(本社:シドニー)との技術提携契約を結んだ。

 折りしも、東京五輪で惨敗したことから、水泳王国日本復活の掛け声の下で誕生した民間スイミングクラブの発展に伴い、市場シェアを独占し、大手から個人経営に至るまで、スイミングクラブはカラフルなスピード水着を身につけた子供で溢れかえった。

 その後も国産ブランドの雄、ミズノで唯一の海外ブランドとして市場シェア1を維持し、安定した売上げと確実な利益をあげ業績に貢献し続けた。水野正人会長をして「気心の知れた経営者同士による、友好的な関係が維持できるブランド」と言わしめた。

 しかし、“歴史は繰り返される”の例え通り、海外提携ブランドのモデルと称されたSPEEDOも遂に、ミズノブランドのグローバル戦略方針により、契約打ち切りというゴールを迎えることになった。

 歴史とは、アディダスブランドを20数年間大切に育て、コアビジネスに仕上げたデサントが、一方的な契約打ち切り通告を受け、その後の業績に大きなダメージを被った事実である。

 この時は、アディダスがその力を以って契約打ち切りを持ち出したのであったが、今回のミズノのケースは同じ解消でも事情が違う。

 なぜならば、ミズノが自社ブランドにこだわり、次回の契約更新の際の条件闘争を行った結果、双方の条件が折り合わなかったからだ。

 海外ブランドは、ブランドパワーが強いほど高飛車な契約条件を突きつけることで知られており、今回もその例に漏れないものと思われる。裏返せば過去40年以上、ミズノがいかに有利な契約を維持していたかがうかがえる。

 加えるに、ミズノは全世界のSPEEDOグループの中でも、高機能商品の開発でリーダーシップを取っている自信があり、今が自社ブランドに切り替えるチャンスとの判断が働いたものと推測する。

 現在、水着は競泳用に留まらずフィットネス分野にも拡大し、流通もデパート、ファッションストア、大規模チェーンストア、スポーツメガショップと拡大している。周辺商品も含めると500億円規模(推定小売ベース)超となっており、成熟市場と言われている。

 自社ブランドで世界市場挑戦を目指すミズノ、後発のアシックス、アリーナからブランドを買い取り独自路線を歩むデサント、そしてミズノと交代しSPEEDOブランドで競争に加わるゴールドウインのレースは、水泳競技と同じ激しいものになることは必至と思われ、結果が楽しみになってきた。

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