スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.422-1(2008年10月27日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター
メジャーの奥行き

 最下位続きだったタンパベイ・レイズの大躍進を見ていると、米メジャーリーグの奥の深さ、層の厚さをあらためて感じる。こうしたドラマを生み出すだけの奥行きが、メジャーの世界には備わっているということだ。

 1998年の球団創設以来、アメリカンリーグ東地区でほとんど最下位に甘んじてきた新興チームが、強豪ぞろいの激戦を勝ち抜いて初の地区優勝を果たし、さらにリーグチャンピオンも勝ち取ったのは近年にない快挙だった。ヤンキース、レッドソックスなどというスター軍団を下しての勝利である。これはもう最高のドラマと言って差し支えない。

 大逆転、番狂わせはスポーツの大きな魅力のひとつだ。豊富な資金力でスターを集めるチームばかりが勝っているのでは、スポーツ観戦の面白みは半減するし、いずれ人気にかげりも出るに違いない。下位チーム、弱小チームの逆襲は、プロスポーツの繁栄には必須なのである。年俸総額が全30球団中29番目というレイズの躍進は、まさしく快挙というべきものだった。

 若いチームだ。主力には20代半ばが多い。ずっと最下位続きだったことから、完全ウエーバーのドラフトでは常に上位指名が可能となり、いい素材が次々と入ってきた。その有望株が着実に育ったところで、チーム力が飛躍的に上がったのである。戦力均衡をもたらすという完全ウエーバー制の理念が、ひとつ花開いた例といえるだろう。

 ドラフト上位指名や、的確なトレードで入ってきた好素材をきちんと磨き上げてみせた育成の力も素晴らしい。トレードにしても、安易に実績のあるベテランをとるのではなく、何年か先を見据えて若手の成長株を獲得するやり方に変えてきたのが功を奏したようだ。戦力均衡を旨とする完全ウエーバー方式にしろ、基礎からチームをつくり上げていくシステムの構築にしろ、小手先ではない、どっしりとした取り組みの確かさが感じられる。これもまたメジャーの伝統の力の一端ということなのだろう。

 ジョー・マドン監督の成功も、伝統の力、層の厚さというものを象徴しているように思える。マイナーで4年プレーしただけで、メジャー経験はまったくないという経歴ながら、指導者としてこうしてみごとな成功をおさめた。プレーヤーとしての能力やキャリアは関係なく、コーチ、指導者としての道が開けているのはメジャーならではだ。それだけ多面的、重層的なのである。だからこそ、ファンを大いにわかせるドラマを生むこともできるのだろう。

 日本はどうだろうか。ドラフトの完全ウエーバーは、それを求める声が強いにもかかわらず、いまだに実現していない。戦力均衡によって共存共栄を目指すという理念が希薄なことを表すひとつの例であろう。

 好素材をじっくりと一から育て上げる態勢ができているとも言いがたい。それは、なんについても土台の部分からじっくりつくり上げていくという方向性に乏しいのを表している。監督をはじめとするコーチングスタッフは、相変わらずかつてのスター選手ばかりで、指導者を組織全体で育て上げていこうという意識も薄い。もちろんそれらはプロ野球のほんの一断面にすぎないが、根本的な取り組みに欠ける部分、本気で変えていくべきところがまだまだ多いのが、そこからうかがえるようにも思う。

 メジャーリーグのやり方がすべてではないのは言うまでもないが、そこに蓄積された伝統や歴史から生まれてきているものには学ぶべきことが多い。レイズの躍進はそれをあらためて示しているのではないか。

筆者プロフィール
佐藤氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件