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vol.456-2(2009年7月17日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター
もっといい球投げてよね

 オバマ大統領は期待外れだった。といっても政治の話ではない。あの若さ、あのかっこよさであるならば、もう少し見どころのある球を放ってほしかったのだ。

 米メジャーリーグのオールスターゲームで始球式をやった大統領は、これで4人目だという。前の3人はスタンドからボールを投げ入れる方式だった。だが、オバマさんはグラウンドに登場すると、さっそうとマウンドに向かった。ジーンズに、ごひいきのシカゴ・ホワイトソックスのスタジアムジャンパーがよく似合っている。47歳の年齢は十分に若いが、それよりずっと若々しく見えた。となれば、大いに期待するというものではないか。

 日本の始球式にはいつもがっかりさせられてきた。プロ野球の開幕、オールスター、日本シリーズ。プロにしろアマにしろ、ビッグゲームや節目の試合にはつきものなのだが、これがどうもぱっとしないことが多いのである。

 女性アイドルなどは論外だ。そもそもスポーツの場にその雰囲気がそぐわないし、野球のボールを握ったことのない女性がちゃんと投げられるわけもない。だが、どんな年代であれ、少なくとも何回かは野球をやった経験があるはずの男たちが、山なりの情けないボールしか投げられないのはどうしたことなのか。ワンバウンドならまだいい方で、はなはだしきはツーバウンド、スリーバウンドでやっと捕手のあたりに転がっていく。確かに18.44メートルはそれなりの距離だが、だいたい、ほとんどの場合はフォーム自体がおよそボールをしっかり放るという形になっていないのが悲しい。

 もちろん、始球式というのはいいボールを投げるのがすべてではない。その場に登場するだけで意味があり、観客に感銘を与える人物も少なくない。ただ、体に故障がないのであれば、きちんとしたフォームで、それなりにやる気のこもったボールを見せてほしいものだ。少々年配であっても、しっかりテークバックをとって、腕を強く振るくらいのことはできるだろう。

 と、わざわざこんなことをあげつらうのも、毎度見せられる情けないボールが、スポーツが置かれた状況の一端を表しているようにも思えるからだ。

 年齢や立場にかかわらず、それぞれにスポーツを楽しめる環境が大事なのは言うまでもない。誰もが自分なりのスポーツマインドを持ち、それを生かせる社会であるべきなのだ。が、実際にそうなっているのか、その点に責任を負う政治家や自治体の長たち(よく始球式に出てくる)はスポーツの魅力や大事さをちゃんと理解しているのか、などと考えると、それにはいささか疑問を感じないではいられない。きちんとボールを投げるという基本さえおぼつかないお偉いさんたちのさえない姿は、どうもそのあたりの貧しさ、不十分さを表しているように思えてならないのだ。

 一方、年若い男性アイドルも山なりボールしか投げられないのを見ると、今度は、この人はキャッチボールをしたことがないんじゃないか、ということは若者の野球離れが本当に進んでいるのではないか、などと心配することになる。いずれにしろ、山なりのワンバウンドからは、スポーツを取り巻く状況への疑問がふと伝わってくるというわけだ。

 ところで期待のオバマ投手だが、左腕からのボールはやっぱり山なりだった。ノーバウンドで捕手役のアルバート・プホルスのミットに収まりはしたが、これでは物足りない。ほかならぬ野球発祥の国にして、世界に冠たるスポーツ大国の代表なのだから、もうちょっと「野球心のある」球を放ってほしかった。練習のひまもほとんどなかったのだろうが、ここでビシッといいボールがいけば、他の始球式への刺激にもなったかと思うと、いささか残念だ。

 そういうお前はどうなのかって? オバマさんよりだいぶ年上だし、学校の体育はずっと苦手だったが、それでも少しはましな球が投げられるだろう。なんといっても我々は野球の時代の子なのである。残念なのは、始球式に呼んでもらえる可能性がゼロということだ。ならば、友だちに声をかけて、久しぶりにキャッチボールでもやってみるとするか。

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