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vol.483-1(2010年3月8日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

バンクーバーの多彩な輝き

 バンクーバー冬季五輪はたっぷりと楽しめた。職業柄、オリンピックというと、現地に行くにしろ日本でテレビを見るにしろ、まずは取材として見てしまうことが多いのだが、ファンの視点であらためてじっくり観戦してみると、やはり面白みはひと味もふた味も違う。種目の少ない冬季大会は、そのほとんどをまんべんなく見ることができて、いっそう楽しい。

 印象に残った結果や選手、チームをいくつか挙げてみるとしよう。
 まずボブスレー男子4人乗りで圧勝したアメリカAチームだ。後半にひどく厳しいカーブが連続する超高速コースは、リュージュの練習で死亡事故が起きたほどの難物である(これについては、また別に論じなければならない)。ところが、スティーブン・ホルコムをパイロットとするアメリカAは、この難問をこともなげにクリアしてみせた。ドイツやカナダの有力チームも手こずり、優勝候補の転倒まで起きてしまう中で、ホルコムだけはただ一人、難コースをうまく手なずけていた。ことに前半の2本はほぼ完璧だったのではないか。微妙きわまりない操作が大きな差となって勝負を分けるそり競技の真髄を、この名パイロットのハンドルさばきは示していたように思う。

 スキーのクロスカントリー競技も迫力満点だった。たとえば男子の50キロクラシカルは、1、2位の差がわずか0・3秒である。途中、何度となく繰り返される駆け引きで体力を消耗しつつも、大詰めではまたスパートをかけ合い、なおかつこの長丁場を滑り切ったゴールでは写真判定になるほどの大接戦を演じたというわけだ。他の種目でも、力の最後の一滴までも絞り尽くすようなデッドヒートを見ることができた。陸上の長距離種目やマラソンが耐える勝負から積極的に仕掛ける勝負へと変わっていったように、こちらもまたレース内容やその質は年々進化し続けているのだろう。

 カーリング男子の決勝も見ごたえがあった。優勝したカナダが終始ペースを握っていたのだが、中でも目を引いたのはサードのジョン・モリスのみごとなショットだ。淡々と投げたストーンが、的確なスイーピングも相まって、絶妙のポジションにおさまっていくのである。これはもう、歴史の重みと選手層の厚さがあってこそのスーパーショットと言うしかない。

 こうして挙げていくときりがない。あとはジャンプのシモン・アマンと、フィギュアスケート女子ペアの申雪・趙宏博組に触れるだけにしておく。アマンは絶対本命のプレッシャーなどものともしない完璧な踏み切りを、また中国ペアは、これぞフィギュアと言いたくなるような、練り上げられた美技を見せてくれた。オリンピックならではの緊迫と集中があるからこそ、これほどのパフォーマンスが生まれてくるのだろう。

 日本勢の健闘もつけ加えておこう。メダル種目はもちろんだが、クロスカントリーの30キロクラシカルで史上初の5位入賞を果たした石田正子の奮闘にも、メダル級と言いたくなるほどの価値があった。また、ノルディック複合の個人ノーマルヒルで7位に入った小林範仁も、後半の距離で思い切って勝負に打って出た果敢さがファンの記憶に残ったはずだ。日本が長らく不得意としてきた分野だけに、2人の健闘は印象的だった。この結果はきっと次へとつながるに違いない。

 スピードスケート女子では、短・中距離の小平奈緒、長距離の穂積雅子の入賞が光った。これも世界との差をなかなか縮められなかったところだ。団体追い抜きの銀メダル以上に価値ある成績だったと言っておきたい。

 というわけで、オリンピックはやはり見どころ満載だった。日本ではフィギュア女子にばかりスポットが当たっていた印象が強いが、五輪の魅力はこんなに幅広く、多様なのだ。メディアはこぞって華やかな人気競技ばかりを取り上げるが、その陰にはこれほどに、多彩で魅力的な輝きがある。アイドルスターばかり追いかけたがるメディアもファンも、次からは少し視点を変えてみてはどうだろう。

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