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vol.485-1(2010年3月29日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

組織としての対応は?

 企業とスポーツの新しい関係を考えるシンポジウムが先だって開かれた。その日はラグビー、バスケットボール、陸上競技でリーグやクラブチームの運営に携わっている人々がそれぞれの活動を報告したのだが、そこで当然のようにわいてきたのは、では協会や連盟は何をしているのかという疑問である。

 日本のスポーツが企業の全面的バックアップを受けて発展してきたのは、もう遠い過去の話になってしまった。実業団スポーツという言葉はもはや死語になりつつある。現在の経済状況が近い将来、大きく好転するとは考えにくい。企業の撤退が相次ぐ中で、大方の競技はかつてない危機にさらされ続けることになるというわけだ。

 既にさまざまな試みが行われている。クラブチーム化して地域密着をはかる方向は、いくつもの競技で試みられているようだ。これまではあまりスポーツと縁のなかった分野にスポンサードを求める動きもある。宣伝広告媒体としてだけでなく、社会貢献としての意義に焦点を当てることで、企業スポーツの再生を目指そうという考え方も出てきている。とにかく、いままでとは違う方向を模索するしかないという危機感は、どの競技でもきわめて強いのだろう。

 ただ、個々の局面での試行錯誤は目につくのだが、競技全体としての取り組みはあまり目立っていないように思う。すなわち、全体を統括する日本協会・連盟の動きがあまり見えてこないのはどうしたことか。

 もちろん何年も前からその種の取り組みは始まっているに違いない。相当な努力も積み重ねられているだろう。だが、これは日本のスポーツがかつて経験したことのない危機なのである。となれば、個々の場当たり的な対応だけではどうにもならない。企業とスポーツの関係をどのような形に変えていけば道が開けるのか、競技の存続、発展のために、どんな新システムを構築していくべきなのか――といった、土台からの根本的な改革案が必須のはずだ。しかし、いまのところ、関係者の注目を集めるような具体的アイデアはどの協会・連盟からも出てきていないのではないか。結局は、それぞれのチームや個人に任せきりという観さえある。

 公的資金投入の増加を求める声は強い。オリンピックのたびにそれはいっそう高まる。もちろん必要なことだろう。だが、現状からして大幅増は望みにくい。国策によって選手強化を行うのには違和感もある。いずれにしろ、スポーツ界はまず、自ら日本のスポーツの将来像と、それを支える新たな構造のプランを明確に描き出し、社会、国民に示さなければならない。そして、そうした取り組みを先頭に立って実行すべきなのは、それぞれの統括競技団体、そして日本オリンピック委員会と日本体育協会であろう。

 なのに、彼らの動きはあまり見えてこない。危機は深まっているのに、だ。

 もともと、日本のスポーツ団体は組織としてあまり機能してこなかったと思う。それぞれの競技を発展させていくためのビジョンや長期計画、その哲学などを常に示していく義務を負っているのだが、そうした役割を目に見える形で果たしている例はあまりない。トップに立つ者たちが指導的、啓蒙的な発言をすることも少ない。「協会(連盟)は何もしてくれない」という声は、どの競技の現場でも共通している。

 とはいえ、いまこそ統括団体はその責任を果たさねばならない。このまま手をこまねいていれば、衰退の一途をたどる競技も出てくるだろう。競技団体、またその幹部たちは、現場に対応を押しつけるのではなく、指導力を発揮して新たな道を開く義務がある。もしそれができないのなら、トップは辞任すべきだ。それぞれの団体、それぞれのトップの先見性、見識、改革への創造力、実行力が否応なく試される時代なのである。

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