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vol.553-1(2012年3月29日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

JOCに「独立の志」は残っているか

 専任コーチに対する国庫補助金や競技団体の役職員に対するサッカーくじ助成金をめぐる不適切受給で、日本オリンピック委員会(JOC)は問題の発端となった理事が辞任したばかりでなく、その他の役員や事務局幹部に減給や降任降格、厳重注意の処分を科した。「不適切」と指摘されたのは10競技団体。補助金頼みに陥っている今のスポーツ界に、起きるべくして起きた問題ともいえる。ただ、今回は単なる不祥事ととらえるのではなく、もっと大きな流れの中で生じた問題と見るべきだ。

 一連の仕組みはこうだ。競技団体は、国庫補助金を受ける事業の場合は3分の1、サッカーくじ助成金の場合は4分の1の費用を自己負担しなければならない。このため、財政難の競技団体は、この負担金を支払えなければ事業が展開できない。問題となったのは国庫補助対象の「専任コーチ等設置」、サッカーくじ助成対象の「マネジメント機能強化」の事業。ともに人を雇用し、報酬が支払われるものだ。しかし、指摘を受けた競技団体は、本来は団体が負担すべき費用を受給者に「寄付」という形で戻させ、団体の負担を軽減させて補助・助成を受けていた。受給者が寄付をしてはならないという規定はなく、まさに巧妙な手法で公金を回していたといえる。

 なぜこのようなことが蔓延したのか。ここ10数年ほどの間に、JOCをはじめ、競技団体は国庫補助や文科省の外郭団体「日本スポーツ振興センター」が運営するサッカーくじ助成に依存する体質を強めてきた。バブル経済の崩壊以降、景気は回復せず、自主財源を稼ぎにくくなった事情が背景にはある。競技団体の役員もトップアスリートも、スポーツは国の支援がないと成り立たないと強調し、国策としてのメダル至上主義を突き進んだ。その結果として補助や助成を受け、公益法人としての資格を認められた。

 本来、スポーツ界が目指した道はこうではなかったはずだ。1980年モスクワ五輪で国の圧力を受けて不参加を余儀なくされたJOCは、このような支配を受けない、政治とは距離を置いた独立した組織を志した。各競技団体の意識も同様だったろう。しかし、いつの間にかスポーツ界からそのような「初心」は消え、補助金や助成金の甘い汁を吸うようになった。それが問題の根底にあると私は思う。

 今回の不祥事により、JOCへの補助金は今後削減されていくに違いない。2012年度の文部科学省のスポーツ関連予算は約238億円。このうち、国が直轄的にメダル有望競技を支援する「マルチサポート事業」の予算は約27億円に及び、初めてJOCへの補助金額を上回った。これからはさらに国の直轄強化が進み、JOCは単なる五輪への選手派遣団体に堕していくかも知れない。そうなれば、この国のトップスポーツは政府の支配下にあるも同然だ。そのような危機に直面していることをJOCは自覚しているだろうか。かつてのスポーツ関係者が強く抱いた「独立の志」は、少しでも残っているだろうか。

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