第19回ミズノスポーツライター賞

第19回ミズノスポーツライター賞発表(2009年3月4日)
2008年度 第19回 ミズノスポーツライター賞 受賞作品
スポーツメントール賞はこちらをご覧ください

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「2008年度 ミズノ スポーツライター賞」受賞者決定

 (財)ミズノスポーツ振興会及び(財)ミズノ国際スポーツ交流財団では、'90年度より「ミズノ スポーツライター賞」を制定し、スポーツに関する報道・評論およびノンフィクション等を対象として、優秀な作品とその著者を顕彰しています。
3月4日、グランドプリンスホテル高輪で 2008年度選考委員会を開き、受賞作品および受賞者を以下の通り決定いたしました。
なお、この「ミズノ スポーツライター賞」の表彰式を4月21日にグランドプリンスホテル新高輪で行います。

■最優秀賞

ケニア! 彼らはなぜ速いのか
  忠鉢 信一(ちゅうばち・しんいち) (文芸春秋)

●選考理由 :

 陸上競技で中長距離界を席巻するケニアの選手。彼らの強さには何か科学的に証明できる根拠があるのか。世界中でその「謎」に興味を持ち、研究を続ける学者は数多い。

 朝日新聞のロンドン駐在員で市民マラソンランナーである忠鉢記者は、雑誌“ランナーズ・ワールド”に紹介されたグラスゴーのピツィラディス博士の新学説「ケニアのランナーはレース前に減量し、水分補給も少なく、身体を軽く保っていることが速さの理由」に惹かれ取材に訪れる。

 着想から取材、さらに展開と力強いストーリー構築で面白く読んだ。世界遺産を訪ねるネイチャー・ドキュメンタリーのようであり、サイエンスに重きを置いたトラベル・サスペンスのようでもある。局面が次々と展開してゆく構成は、多分にベストセラー小説である「ダヴィンチ・コード」の影響を受けているような印象を持ったが、だからと言ってそこに嫌みは感じない。新鮮である。文体は歯切れがよく、短い文章を畳みかけるように積み上げてリズム感がある。所々に挿入されている会話も生き生きしていて、リアリティを演出している。

 本書を通じ、数多くの真剣な研究がなされている事実に驚くと同時にカレンジンという部族の存在、部族問題、ケニア国民生活におけるロードレースのポジションなど興味深いテーマを知った。欧米人がアフリカンに対して抱く「研究対象」としての目線も改めて見えたような気がする。大学でスポーツ科学を専門とする学部に在籍した著者ならではの理解力と、コミュニケーション能力を伴う語学力の高さによって、かなり難解な医科学、生理学の専門領域すら抵抗無く読み進められるのは見事である。従来のスポーツノンフィクションにはなかった新領域を開拓した作品と言える。

■優秀賞
吉田沙保里―119連勝の方程式
  布施 鋼治 (新潮社)

●選考理由 :

 北京で女子レスリング55`級五輪2連覇を達成した吉田沙保里の強さと、微笑を誘う性格、吉田を育てた家族や指導者たち、女子レスリング関係者の物語を丁寧に書き上げた作品である。ほのぼのとした温もりに包まれる、読後感のさわやかな佳作である。

 本書は当初「不敗の方程式」という書名を予定していたが、まさかの1敗で変更された。内容もかなり修正を余儀なくされただろうが、かえって人間・吉田沙保里のダイナミズムや強さの不思議がむしろ鮮やかに描かれることにつながったのではないか。08年7月の出版で、五輪直前のトレーニングで完結しており、2つめの五輪金メダルをカバーできなかったのは惜しいが、やむを得まい。著者の狙いはライフストーリーでも、復活ドラマでもなく、吉田沙保里という人間を理解し、伝えることにあったのだから。

 レスリングの専門知識にも裏打ちされた文章は安心感があり、読みやすい。女子レスリングの五輪実施・発展を見通し、自腹を切って選手強化の先頭に立った福田富昭日本レスリング協会会長の奮闘ぶりも面白い。

 重量感があるとはいえないが、新鮮な分野を取り上げた好著といえよう。

■優秀賞
デットマール・クラマー 日本サッカー改革論
  中条 一雄 (ベースボール・マガジン社)

●選考理由 :

 日本サッカーの改革者であり、救世主とも言われるドイツ人指導者デッドマール・クラマーの人となり、その指導論を、初来日からおよそ半世紀にわたって身近で取材してきた元朝日新聞記者中条一雄がまとめた。クラマーは今もドイツで健在ながらすでに齢83歳、著者の中条も一つ違いの82歳である。お互いに残された時間は少ない、書いておかねばならないことを書けるうちに、という思いが著者の本書執筆動機となったようである。

 最近の著者とクラマーという二人の老人が熱く抱擁している写真がカバーの袖にあるような個人的な思い入れの強さが遠慮なく打ち出されているにも関わらず、本書は仲間誉めの、ただの記念誌に堕してはおらず、クラマー・コーチの仕事ぶりは、その背景や現実の成果と失敗も含めて、客観的に、説得力を持って紹介され、考察されている。そしてその対極に、メキシコ後(クラマー後)の日本サッカーの低迷ぶりへの鋭い批判が提起される。東京五輪後にクラマーが提起した日本サッカーへの提案(本書の末尾に収録されている)は、リーグ戦の実施など実現したこともあるが、その多くは未だに読むに値する現実性を持っている。逆に言えば、四半世紀経ってもクラマーのアイデアを生かし切れない日本サッカーへのもどかしい気持ちが本書執筆の動機の一つなのだろう。「日本サッカー改革論」という副題も宜なるかなと思われる。
 
 80歳を優に過ぎたクラマーと著者が昔語りに終始して現状を見ようともしなければ、それはいわゆる老害に過ぎない。終盤少しそれに近づく危険性を孕みながらも、この二人のやり取りには未来への希望が感じ取れる。熟年の読者に「老いていくこと」を明るく捉えさせてくれる点でも価値ある一書と言える。
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第19回ミズノスポーツライター賞(2008年)

主催:財団法人 ミズノスポーツ振興会 
選考:ミズノ スポーツライター賞選考委員会

[主旨]
 スポーツが観る者のこころを鷲掴みにする瞬間は、アスリートたちが限界に立ち向かう姿、死力を尽くして戦った者同士が互いを讃えあう光景、歓喜に吼える勝者の傍で虚脱感に襲われる敗者など、視覚的で感覚的な世界の中にあります。さて、オリンピックではテレビの目が、その舞台で繰り広げられる最高のプレーとパフォーマンスを、よりリアルにより刺激的に、その場の観衆にも目撃できない映像を画面に映し出し、人々に興奮を喚起させます。

 一方、活字メディアはリアルタイムの映像は他所にして、アスリート達の心理や戦いのプロセスを丹念に解きほぐし、その真相や全貌をドキュメントとして伝えてくれます。それは、テレビカメラでは追えない極めて人間的な繊細で大胆な取材活動と書き手の感性によって仕込まれ、読み手の想像力と洞察力とがあいまって読むスポーツ文化が醸成されていきます。

 テレビメディアがスポーツの生殺与奪権を握った今日、スポーツジャーナリズムにおける活字メディアには、客観的な報道性(記録性)、スポーツに迎合しない批評性、スポーツの世界を豊かに描く娯楽性を、よりいっそう高めることが求められています。

 2008年度で19回目を迎える「ミズノ スポーツライター賞」は、活字メディアを通してスポーツの素晴らしさと価値を伝える、スポーツライターの業績と活躍を顕彰する唯一の賞として、その使命はますます大きなものとなってきました。

 本年も21世紀のスポーツ界とスポーツ文化の大いなる発展と飛躍に寄与することを目的として、スポーツノンフィクションと報道活動に関する優秀な作品とその著者を広く公募いたします。

[対象領域]
 【2008年1月1日〜12月31日】に発行・出版・発表されたもので、主として新聞・雑誌・単行本等に掲載された個人もしくはグループで書かれたスポーツ報道、スポーツ評論、スポーツノンフィクション、など。ただし、インターネット上のウエブサイトなどで発表されたもの、社内報や広報誌等一般に販売されていないもの、一般の者が入手不可能な機関誌的なもの、翻訳書や専門学術書・誌、研究紀要等に掲載されたいわゆる学術論文はこの対象からは除く。

[表彰内容]
★最優秀作品 1本 (トロフィー / 賞金100万円)
☆優秀作品  2本 (トロフィー / 賞金 50万円)

[選考委員]

委員長岡崎 満義元(株)文藝春秋取締役兼編集総局長/「Number」初代編集長
委 員杉山 茂スポーツプロデューサー/元NHKスポーツ報道センター長
 村上 龍作 家
 ゼッターランド ヨーコスポーツキャスター
 水野 正人(財)ミズノスポーツ振興会会長、ミズノ渇長

※敬称略
●締め切り(消印有効):2009年1月10日(土)   
●発表 :2009年3月4日    
●表彰式 :2009年4月21日

【お問い合せ先】
「ミズノ スポーツライター賞」選考事務局
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-16-15 代々木フラット401 スポーツデザイン研究所
TEL:03(3377)4858 / FAX:03(3377)5028
お問合せ:こちら

第19回・表彰式 天空・グランドホテル新高輪(2009年4月21日)
水野正人氏
(財)ミズノスポーツ振興会会長、
   ミズノ(株)会長
岡崎満義氏
選考委員長
元(株)文藝春秋取締役、
「Number」初代編集長
優秀賞
吉田沙保里―119連勝の方程式
(新潮社)

布施鋼治氏
優秀賞
デットマール・クラマー
日本サッカー改革論
(ベースボール・マガジン社)

中条一雄氏
代理:ベースボールマガジン代表
優秀賞
ケニア! 彼らはなぜ速いのか
(文芸春秋)

忠鉢信一氏

過去の受賞記録
財団法人 ミズノスポーツ振興会 のミズノスポーツライター賞サイトをご覧ください

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