スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.651-1(2015年10月15日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−13
 「追加種目」に残る疑問

 野球・ソフトボール、空手、スポーツクライミング、サーフィン、ローラースポーツ。こう並べてみると、やはり違和感を覚えずにはいられない。オリンピックに、これらは本当にふさわしいのかどうか。違和感を抑えられないのは、そこにさまざまな疑問がのぞいているからだろう。

 IOCの「アジェンダ2020」で打ち出された開催国の追加種目提案権。2020年大会では、組織委員会がこの5競技18種目を追加種目としてIOCに提案することとなったのだが、スポーツ関係者や多くのファンはこれを見てどう感じただろうか。スポーツ界にとって最も大事な大会にふさわしい選択だと思えただろうか。
 まず疑問を感じるのは、若者重視という点だ。若者のスポーツ離れを防ぐためという理由で、IOCは若い層にアピールする競技をオリンピックに加えたいとの意向を強く打ち出している。それでスポーツクライミング、サーフィン、ローラースポーツ(スケートボード)が入った。が、ファッショナブルなイメージやシティ感覚の強い、いかにも現代ふうの競技だからといって、それだけで若者に対するアピールになるだろうか。それによって、スポーツにあまり関心を持たない若い層の関心がオリンピックに向くかといえば、どうもそれほど簡単、単純なこととは思えない。「いかにも」の競技を入れさえすれば、というのは、いささか安易な考えなのではないか。若者というより、むしろテレビや新規スポンサーに対するアピールの方が強いのではないかとさえ思ってしまう。
 その点だけではない。オリンピック競技には普及の面でも歴史の面でもそれなりの厚み、存在感が欠かせないと思う。言ってみれば、世界の多くの人々が、なるほどと納得するものであるべきなのだ。今回、若者にアピールするとして選ばれた競技に、それだけの世界的普及度や一般の認知度、積み重ねられた歴史があるかといえば、そこにはちょっと首をかしげざるを得ない。

 野球・ソフトボールの復活は、日本のメダル獲得の期待とも相まって大いに歓迎されているようだ。しかし、これもまた幅広い普及の面からいえば、必ずしも世界の人々が納得する選択ではない。参加人員を抑えるために野球、ソフトそれぞれ6チームずつというのもあまりに少なすぎる。それでは野球・ソフトの魅力、醍醐味もしっかり伝わらないだろう。空手は幅広く普及しているように思えるが、専門家でない一般ファンの目からすれば、テコンドーとよく似ているという重複感があるのではないか。いずれにしろ、これをいまオリンピックに入れるべきだという必然性は、どの競技についてもあまり感じられない。ということはつまり、「世界の多くの人々がなるほどとうなずく」ものとは言いがたいのである。

 時代によってオリンピックが変わっていくのは当然で、新種目の参入や種目の入れ替えも時にはやむを得ないだろう。しかし、オリンピックが世界中のスポーツ人やファンにとってきわめて大切な存在であることを忘れてはいけない。何度も言うように、できる限り多くの人々が「これなら」と納得する競技こそがそこにあってほしい。ビジネスやテレビ映りや流行などによって簡単に入れ替えられるようでは、それこそ多くの支持は得られないだろう。ところが、どうも近年はその原則が大事にされていないように思う。
 IOCが「アジェンダ2020」を打ち出したように、また場合によっては開催希望が少なくなってきたことからもわかるように、オリンピックは明らかに曲がり角にある。さまざまな反省、見直しが求められる時代なのである。もちろん競技についても例外ではない。オリンピック競技はどうあるべきか。いまのような見直し方でいいのか。ファンが真に求めているのは何なのか。もう一度、一から考えるべき時期がやって来ている。

筆者プロフィール
佐藤氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件