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vol.720-1(2017年7月13日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−59
 何のための開会式か

 オリンピックの開会式のことを考えている。あれほど贅を尽くし、ありとあらゆる要素を盛り込み、最先端技術の粋をそそいでいるのに、どうして途中で飽きてしまうのだろう。しばらくすると嫌気がさしてくるのはなぜだろう。もちろんあれを素晴らしいと思う人は多いだろうが、また一方では、飽きたり嫌気がさしたりするテレビ視聴者も少なくないように思える。
 長すぎるというのは間違いない。ショーが始まり、延々とやったところでようやく選手入場となり、各種セレモニーが続いて、最後はまたショーになる。いくら内容豊富であろうと、あれでは見る側も集中力が続かない。びっくりするほど高額なチケット代に見合う内容をと考えると、あそこまでやらなければならないことになるのだろうか。
 とはいえ、長さもさることながら、あれほど豪華絢爛なのに途中で飽きたり嫌気がさしたりする理由は、やはりこのことに違いない。その内容が、オリンピックにもスポーツにも関係のないことばかりだからだ。オリンピックがスポーツの祭典であるのは、いまさら言うまでもない。なのに、その本筋に関係ないことばかりを、これでもかと繰り広げるところで、見る側の違和感がどんどん増幅していくのである。
 振り返ってみると、1980年代の半ばあたりまでは、さほどでもなかったように思う。1984年のロス大会は、ロケットマンの出現に象徴される大がかりなショーアップで記憶されるが、土地柄もあってか、まだスポーツ大会のオープニングという感じは残っていたように思う。現在の形が定着したのは、その次のソウル大会あたりだろうか。
 まずは絢爛たる歴史絵巻が必須となった。開催国の歴史を大昔からたどるショーが延々と続くのである。そこに、いかに自分たちがすぐれていたかという自慢も入ることが多いようだ。場合によっては、いわゆる国威発揚的(現権力の発揚かもしれない)な要素も盛り込まれる。それぞれの固有の歴史や文化、伝統を世界に知ってほしいという建前があるのだろうが、近年の開催国はみなそれなりの大国ばかりで、だいたいの知識は既に世界中に広まっているのではないか。長々と続く歴史絵巻は、開催国やつくり手の自己満足に過ぎないようにさえ思える。
 近年は、先住民族の存在や文化にかなりの時間を割くことも多い。それはもちろん意味あることだ。が、それぞれの先住民族が圧迫を受け、苦難の道のりを歩んできたことを考えると、開会式での取り上げ方を素直に受け入れる気にはならない。先住民を圧迫してきた歴史に真摯に向き合い、反省しているところがあまり見えてこないからだ。
 平和や共生への呼びかけもいろいろな形で盛り込まれるが、それをショー仕立てにする必要はないのではないか。歌や踊りなどのパフォーマンスが主で、それぞれの主張はとってつけたように見えるだけだ。そうしたメッセージを発するのなら、もっとシンプルでストレートな形でのアピールにした方がいい。
 いずれにしろ、いまの開会式には、豪華にショーアップするために、オリンピックにもスポーツにも関係ないことばかりを寄せ集めて、無理やりつくり上げているという観がある。それでは見る者を感動させることにはならない。オリンピックのあり方については、少しずつ見直しが進み始めているが、開会式のあり方についてもそろそろ考え直すべきだろう。経費節減の面でも、開会式の見直しは大いに役立つはずだ。
 歴史絵巻や、形だけのメッセージはいらない。オリンピックの開会式では、そのたびに、オリンピックそのものの歴史、また本来の意義や目的をあらためて振り返ればいい。そうすれば、そこに平和や共生、友好親善などのアピールもおのずと浮かび上がってくる。とってつけたようなメッセージよりも、その方がずっと説得力があるに違いない。
 セレモニー部分にも考えるべきことは多い。最大の見せ場となっている聖火の点火についても、もっとシンプルにした方がいいだろう。演出過剰の点火ショーは、人々を驚かせはするだろうが、感動は呼ばない。1964年東京大会の映像はいろいろなところで見られるが、その聖火点火は単純きわまりない形ながら、多くの人々の胸を素直な感動で満たした。半世紀前と同じにせよとは言わないが、そこからは多くの教訓やヒントが読みとれると思う。
 国の威信やビシネスのためではない、オリンピックそのもののための開会式をぜひ見てみたい。真のオリンピック好きはそう思っているはずだ。

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