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vol.729-1(2017年9月21日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−64
 「苦肉の策」に胸を張るとは・・・

 「オリンピックにとって歴史的な日となった」「これ以上の喜びはない」などという会長の言葉を新聞各紙は伝えている。とりあえずは手放しの喜びようというわけだ。だが、もちろんそんなに喜べることではない。これはただの応急措置、あるいは弥縫策に過ぎない。
 9月13日、IOC総会で2024年夏季大会の開催地をパリに、28年大会の開催地をロサンゼルスにすることが正式に決まった。二大会の開催都市を同時に選ぶという異例のやり方は、だいぶ前から伝えられてはいたが、それでもトーマス・バッハIOC会長が胸を張って「大成功」を強調したのには違和感を覚えずにはいられない。
 この連載の第60回でも「同時決定の幻滅」と書いたように、もとはといえば膨大な経費を覚悟せざるを得ないオリンピックの現状に嫌気のさした多くの都市が、相次いで大会招致に背を向けたのから始まったことではないか。その状況をつくり出し、加速させてきたIOCも、さすがに危機感を抱かないわけにはいかなかった。そこで、当面ただ二つだけ残った立候補都市をそのままつなぎ止めるために、同時決定で二大会に振り分けるという異例の手段に出たのである。オリンピック開催に意欲を示していた欧米の有力都市が軒並み「NO!」を突きつけた危機はなんら変わっていないのだ。それなのに、よく「ウィン、ウィン、ウィンだ」なぞと言えたものだと思う。
 バッハ会長の言葉にあるように、今回の措置は「今後11年間の安定を保証できた」ものに過ぎない。危機回避のための苦肉の一手というわけだ。オリンピックの新たな将来を開くものとは到底言えないだろう。
 IOCやオリンピック関係者がなにかといえば口にする「オリンピック・ムーブメント」は、大会を開くにあたってどういう形で表すべきか。カネがかかりすぎるゆえに、限られたごく一部の大都市ばかりで開くのみでいいわけがない。世界のさまざまな地域、多彩な街、多様な文化のもとで開いてこそのオリンピック運動だろう。それができない状況をそのままにしておいて、既に二度ずつ開催している大都市での開催を、原則を破って同時決定したのである。それを、まるでかつてない快挙のように自画自賛するとは、いったいどういうことなのか。「今回はやむをえずこういう形としたが、今後はオリンピック本来の精神に立ち返って、多くの都市が立候補してくれるような状況をつくっていきたい」とでも述べるのが当然ではないのか。
 では、これからどうすべきか。まずはIOCがこれまでの路線に対する反省をきちんと行うことだと思う。そのうえで、世界のスーパー大都市だけでなく、中都市でも、場合によっては小都市とされるようなところでもオリンピック大会を開けるような道筋をなんとか考え出し、世界のスポーツ界にはっきり示してほしい。それが多くのスポーツ関係者の、またスポーツファンが望むところではないだろうか。
 IOCは「アジェンダ2020」で、これまでの拡大膨張路線の修正をはかっているが、それだけでは足りない。第一、そこには率直な反省がなかったように思う。これまでの方向があまりにも行き過ぎていたことを省みて、その過ちを認めることから始めなければ、ここまで積み重ねてきた方向性を大きく変えることなどできないのだ。これだけ多くの都市が開催の意思を翻すというのは、すなわち、これまでのやり方に根本的な問題があることの証明だろう。なのに、そこに責任を負うIOCが、組織として、またトップの姿勢として真摯な反省を表明しないのでは何も始まらない。IOCが先頭に立って誤りを認め、そのうえで新たな方向性を強く打ち出さなければ、現状が変わるはずもない。
 同時決定の祝賀ムードを吹き飛ばすかのように、リオ大会招致をめぐる買収疑惑が捜査の対象となっている。その内容、今後にどんな影響を及ぼすかは捜査の進展を待つしかないが、場合によってはオリンピックのイメージを決定的に損なう結果にもなりかねない出来事だ。少なくとも、多くのスポーツファンが失望し、オリンピックにそっぽを向くのは間違いない。そうなればビジネス対象としての価値も地に落ちる。
 いずれにしろ、オリンピックを取り巻くすべての事象がひとつのことを証明し、強く迫っている。オリンピック、IOCはいまこそ根本から変わらねばならない、ということを、だ。

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