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vol.754-1(2018年6月28日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−85
 第二、第三のパラアリーナを

   これは画期的な出来事と言っていい。障害者スポーツ(パラスポーツ)専用体育館「日本財団パラアリーナ」(東京・品川区)の完成である。各地に障害者スポーツセンターが設けられてはいるが、それだけでは多くの利用をカバーすることなど到底できない。といって、一般の体育館を使うには相変わらずいろいろな制約があるといわれる。パラアスリートにとっての最大の障壁のひとつが「練習拠点がない」ことなのだ。障害者スポーツの将来をしっかりと見据え、発展への道を切り開いていくきっかけとしても、この専用体育館誕生の持つ意味はきわめて大きいと言えるだろう。
 東京臨海副都心への足となる「ゆりかもめ」の「船の科学館駅」を降りると、もうアリーナは目の前だ。パラスポーツ支援の中心となっている日本財団パラリンピックサポートセンターが「船の科学館」の敷地内に建設し、6月1日にオープンとなった。エントランスを入ると広々としたメインフロア。バスケットボールなら2面分、ボッチャなら8コート分がとれるという広さで、四分割してさまざまな競技を同時に行うこともできる。フロアには車いすバスケットボール、ウィルチェアラグビー、シッティングバレーボール、ボッチャ、ゴールボール、ブラインドサッカーと多くの競技のコートラインが引かれ、どの競技でもすぐに使えるようになっている。
 もちろんボールゲーム以外でもいろいろと利用できる。筆者が訪れた時にはフェンシングの日本代表チームが練習に励んでいた。車いすだと体育館の床面が傷つきやすいというのが一般施設を使いにくい要因のひとつだが、ここはワックスの工夫などで激しい動きでも傷つきにくく、かつ修復しやすくなっているという。まさに心おきなく練習ができる環境というわけだ。
 このほか、トレーニングルーム、ロッカールーム、シャワールーム、ミーティングルームが設けられている。トイレも多数。そのすべてが車いすで動きやすいつくりになっているのは言うまでもない。2020年東京パラリンピックへ向けて、同大会の種目となっている競技団体、またそれぞれの競技団体に登録している選手やクラブチームが利用できるが、使用料はなし。「こんな練習場所があったら」とすべてのパラアスリートたちが夢みていたこと、それをそのまま現実のものとしたのがこのアリーナなのだ。
 先に触れたように、障害者スポーツの前にまず最初に立ちはだかる壁は、「スポーツをやる場所がほとんどない」ということなのである。それは一般の場合もあまり変わらないが、障害のある場合は、ある程度の数がそろっている一般施設を使うのもままならない。「車いすでは床面が痛む」「付き添いが必要」――などの理由で使用を拒まれるケースも相変わらず少なくないというのだ。スポーツに、競技に対してどんなに情熱があっても、まず基本的な要件の第一が欠けているのである。ここに道をつけなければ、障害者スポーツの発展など望むべくもない。
 そうした中、この専用アリーナの誕生はスポーツ界全体、あるいは社会全体に対しても、それなりに大きな刺激となるだろう。パラアスリートが待ち望んでいた理想の専用施設は、その価値の高さはもちろん、反面でそうした施設がほとんどなかったこと、またスポーツ界全体、一般社会全体がいかに理解不足だったかを示すものでもあるからだ。このアリーナの存在を、パラアスリートや障害者スポーツの関係者だけでなく、一般の市民たちにも幅広く知らせたい。これは、障害者スポーツの未来を社会全体で考えるためのきっかけともなり得る。今回完成したアリーナは、とりあえず2022年3月までの限定施設となっているが、それもまた、東京パラリンピックが終わった後の将来像をいまからじっくりと考えるためのきっかけのひとつとなるだろう。
 この施設はおよそ半年でつくられ、工費は7億9千万円ほどだったという。日本財団の英断と工夫があってのことだが、それだけの工期と費用でできるということは、国や各自治体でも工夫しだいでこうした施設をさほどの無理なくつくっていけるのを示しているのではないか。障害があっても気軽にスポーツに取り組める社会は、そのまま誰もが暮らしやすい社会につながる。第二、第三、第四のパラアリーナの誕生を期待したい。

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