スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.765-1(2018年10月4日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−92
 アジアに手本を示してほしい

   愛知県と名古屋市の共催で2026年に開かれるアジア大会。開催協力への政府の閣議了解も行われ、準備はいよいよ本格化していく。そこで、日本で3回目となる第20回大会には、ぜひともこのことを望みたい。これからのアジア大会はいかにあるべきかという根本的な問いに対して、ひとつの答えを明確に示す開催としてほしいのだ。
 つい先ごろ、インドネシアでジャカルタ・パレンバン大会が開かれたアジアスポーツの祭典は、回を追うごとに大規模に、また華やかになってきた。こうした発展はもちろん悪いことではないが、その反面、経費の増大や規模拡大が開催地に過剰な負担を強いる状況も出てきている。さまざまな側面で、あらためて考えるべきことが多いのがいまのアジア大会なのだ。アジアのスポーツ界のリーダー的存在である日本での開催となれば、ここで、あるべき姿についてひとつの指針を打ち出すべきではないか。
 では、愛知・名古屋大会で目指すべきは何か。まずはオリンピックと同じく、経費を抑えることだろう。政府も閣議了解に際して、簡素な大会運営を求めている。いまや、どんなに人気の高いビッグイベントでも、たとえばオリンピックでさえ、地元市民の理解がなくては開けない時代なのだ。そのためにも「できるだけカネをかけない」姿勢は絶対に欠かせないのである。
 いわゆる国威発揚や、時の政権の権力誇示のために、派手で豪華な大会を開きたがる例は、オリンピックであれアジア大会であれ、いまも少なくないように見える。ただ、先進国の一角を占め、成熟した社会を形成しつつある日本であれば、それも有数の大都市圏である愛知・名古屋となれば、あらためて国力を誇示する必要などない。安定した成熟都市として、過剰な豪華さや不要な装飾を排した、落ち着きのある大会を実現できるはずだ。それは経費節減をもたらし、地元市民の理解を得ることに直結する。国情の違いはあれ、そうした大会は、これから開催を考えようとする国や都市のひとつの手本ともなり得る。
 競技会場や選手村などの施設をどうするかも注目点となるだろう。オリンピックでも既存施設や仮設競技場の活用が求められるようになっている。莫大な建設費をかけて巨大な施設をつくっても、大会後には維持費による赤字を積み重ねるばかりのお荷物になりかねないというのがいまの共通認識だ。愛知・名古屋では新設を必要最小限にとどめ、既存・仮設の利用を徹底してはどうか。それができれば国内外で高い評価を受けるのは間違いない。その方向性は、アジア大会ばかりでなく、オリンピック開催にもそれなりの影響を与えることになると思う。
 オリンピックに並び、しのぐほどになっている参加選手数、実施競技数についても考えてもらいたい。スポーツに関しても発展途上のアジアでは、普及のためにも多くの国・地域、多くの選手の参加が大切だ。オリンピックに入っていない競技を実施するのにも意味がある。とはいえ、無制限、無秩序と感じるほどに選手数や競技数を増やしていけば、開催国・都市にかかる負担も増していくばかりだろう。このあたりで、普及・発展の必要性も考え合わせたうえでの適正な規模を具体的に打ち出し、今後の指針として示してはどうか。
 アジア大会では地域独自の競技も行われる。セパタクロー、カバディなどが盛んになり、世界的な広がりを見せるようになったのは大きな成果だ。ただ、ジャカルタ・パレンバン大会などでは、スポーツファンにさえほとんどなじみのない競技も多く入っていた。地域競技の発展・育成も大事だが、一回限りの採用では、国際総合大会のありようとしてあまり意味がないようにも思える。世界的な普及も見込めるアジア発祥の競技をじっくりと育てていくという観点から、ある程度、新規競技の採用を絞っていくのも必要かと思うが、どうだろうか。そのあたりの検討も愛知・名古屋大会に託したい。
 アジア大会では囲碁、チェスなど、マインドスポーツといわれる競技が実施されている。2022大会では電子ゲームのeスポーツも採用される。これらがスポーツの競技会にふさわしいかどうかについては賛否が分かれているにもかかわらず、徹底した論議のないままに加えられ、そのまま定着しつつあるように思えるのはいかがなものか。eスポーツについてはオリンピックへの参加の是非が話題になっているが、アジア大会でも、あらためてしっかりした論議を尽くしたうえで採否を決めていくべきだろう。それも愛知・名古屋に託したい課題のひとつだ。
 スポーツ先進国であり、スポーツ文化の成熟も進んでいる日本で開かれる大会は、アジア全体に強い影響力を及ぼし得る。が、単に経済力や運営能力を生かした、従来通りの大会になってしまえば、さしたる注目を集めることもあるまい。26年大会は既に、猛暑を避けて秋の開催にするという英断も下している。数々の課題に応えて今後の開催の手本となり、さらに、アジアスポーツ全体の発展にも寄与するような大会を実現できれば、「愛知・名古屋」の名はひときわ輝くことになるはずだが、さて、どうだろうか。

筆者プロフィール
佐藤氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件