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2004日本グランプリシリーズ第7戦
第17回南部忠平記念陸上競技会
男子110mH 内藤真人

SPORTS IMPACT
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vol.208(2004年7月14日発行)

【杉山 茂】ドーピングの霧晴れぬ「全米陸上」
【高田実彦】“救世主”ライブドアにもの申す
        ―いい加減なライブドアの買収発言―

【岡崎満義】真夏の夜の夢―ストライキの前に―
【大島裕史】日本球界再編、韓国からの視点

 

筆者プロフィール

vol.207 2004年7月7日号「日本プロ野球・・・」
vol.206 2004年6月30日号「次の合併・・・」
vol.205 2004年6月23日号「近鉄+オリックス 問題」
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ドーピングの霧晴れぬ「全米陸上」
杉山 茂/スポーツプロデューサー)

 オリンピックのムードを、いつも一気に盛り上げるのは、競泳と陸上競技の「全米予選」だ。

 この競技会が終わらなければ、オリンピック本番のメダル争いを予想するのは、ほとんど意味がない。

 例え、それまでに各地で世界記録がマークされていても「全米」は、あっさりそのタイムを追い抜く迫力にあふれている。

 だが、今夏の大会、とりわけ陸上競技は、景気のよい結果が伝えられてくるものの、どこかに影がある。禁止薬物の使用をめぐる黒い霧が晴れぬままに競技が進んでいるからだ。

 アメリカ・スポーツ界の“薬汚染”は、人気の各スポーツも巻き込んで、最悪の状況といわれ、ブッシュ大統領も「ドーピングの追放」を声明したほどだ。

 この動きは、各国のアンチドーピング運動が、さらに理解を深められるものと、全世界で期待の声を広げるほどのインパクトがあった。

 ところが、陸上競技は、疑惑を持たれていた選手を“処分”できぬまま大会の幕を開けた。裏付けの資料が充分でないことや、選手たちに陽性反応を示した証拠がないのである。

 「疑わしい代表格」とされた男子100メートルの世界記録(9秒78)を持つティム・モンゴメリは7月11日の同種目決勝で7位と完敗、アテネへの道を閉ざされたが、騒々しい周囲が影響したことは充分に予想される。

 最終日(7月18日)までの各種目でどのようなニュースが飛び込んでくるか、その内容によっては、オリンピック本番を揺さぶることになろう。

 日本でもアンチドーピングへの関心は、着実に高まっている。

 「薬の利用者が増えているためだ」という声もあるが、危うい兆候が濃くなるまでには至っていない。

 ただ、国内での検体総数は年間で2500体を割る“少数”にとどまっており、今後、この面の充実が図られなければ、危うさの増す懸念が潜む。海外では5000検体を越す国も少なくないという。オーストラリア・オリンピック委員会が、違法ではない薬品でも競技者自身による注射は原則として禁止するなど各国の姿勢は厳しい。

 2つの「全米予選」に酔いながら、本番を含めて“無事”を祈る、というもの変な気持ちだが―。

“救世主”ライブドアにもの申す
―いい加減なライブドアの買収発言―
高田 実彦/スポーツジャーナリスト)

 「近鉄を買いたい」といって、突然、“プロ野球の救世主”然として世間に知れ渡ったライブドア。しかし、そのやり方はかなりいい加減な感じである。

 いまからざっと30年前の昭和48年(1973年)に不動産業の日拓ホームが東映フライヤーズを買収した。当時の西村昭孝社長は「優勝を狙う」などと意気軒昂だったが、1年経営しただけで日本ハムに売ってしまった。球団を買うことによる“売名”が目的と思われた。

 これと前後して、同じ昭和48年に西鉄ライオンズを太平洋クラブが買収した。この太平洋の球団オーナーは岸信介元首相の第二秘書として“政界の裏側に通じている人”といわれた中村長芳氏。ライオンズは黒い霧事件もありボロボロで、値段はたった1億円。タダ同然だった。

 太平洋のライオンズへの資金投下は4年間で、次の2年間の資金はクラウンライターが出したが、この6年間のオーナーはずっと中村氏だった。 その中村氏が昭和52年(1977年)にライオンズを西武に売った。値段は40億円。1億で買って40億で売ったのだから「中村氏は6年間で巨額を懐にした」といわれた。このやり方は一種“球団転がし”だと球界内部で不評を買った。

 ついで、昭和63年(1988年)2つの身売り騒動が起こった。南海がダイエーに、阪急がオリックスに(当時はオリエント・リース。球団買収を機会にいまの社名にした)に身売りをしたのだ。このときの値段はともに40億円といわれた。

 この“売名”“球団転がし”につぐ身売り・買収劇が続いたことでプロ野球業界は、「球団身売りがこの後も頻繁に起こるようでは球界が不安定になる」と球団売買に神経質になって、「野球機構加盟金30億円」の新規則をつくるなどして今日に至っている。

 ライブドアは、このような業界の警戒心と神経質さを知らなかったのか、知っていたとしたらそれを忖度する努力を十分にしていなかったと思われる。IT関連企業のことは知らないが、球団の買収劇には、これらの経緯や事実をふまえた“情報収集”や“根回し”や“協力体勢づくり”をしておく必要があった。それをどのくらいやったのだろうか。

 プロ野球は、新聞社が音頭を取って新聞社・鉄道会社によって創業されたもので、以来球団を持ち続けている彼らには「つくって、育てて、守ってきた」強烈な自負がある。オーバーにいえば、プロ野球を育てるため巨費を投じてスポーツ新聞を発刊し、テレビ局を持ち、球場をつくってきた。その筆頭が読売新聞社である。現オーナー渡辺恒雄氏は独裁・独断的であるが、その人が君臨するその善し悪しはともかく、それなりの真摯な態度が必要だろう。

 どこまでやってもらったのか知らないが、ライブドアは近鉄買収に際して星野仙一氏に口利きをしてもらったというが、それくらいでは業界に真意を疑われて当然である。プロ野球経営者にとってライブドアの社会的存在感と認識は、「あんた誰?」程度のものである。

 しかも、ライブドアが提示した買収額が30億円だったと報道された。この額は笑える。

 30年以上前でも「40億円は“バカ安”」といわれたのだ。阪急、南海が身売りを決意したときのパ・リーグの観客動員数は年間600万人。ドーム球場がなくて開催が天候に左右される不安定さもあった。いま、パ・リーグは貧してきたといっても昨年の動員数は1000万人台。ドーム開催が主体。その意味では段違いな安定業界になっている。

 “売名”で買った日拓ホームはいっぺんに名前を宣伝できた。球団を持つメリットは限りなく大きく、日本ハムもオリックスも一気に一流企業の仲間入りをした。ダイエーの失敗は球団の失敗ではない。

 こういう宣伝力と存在感のある“一流ブランド”を買うのに30億円とは、1ケタ間違っているのじゃないか。ロッテが年間40億円の「宣伝広告費」を30年間に渡って出し続けているのはこのためだ。近鉄が30億円で売ってくれ、といわれて「本気なのか、バカにするな」と受け止めたのはムリないところだ。

 買収の名乗りをしたあと、堀江貴文社長は近鉄が試合している球場の外野席へ行って、「巨人の渡辺オーナーもこの熱気を感じて欲しい」というパフォーマンスをしたようだが、あのおっさんでも他球団のオーナー連も、堀江氏より頻繁に球場へ行って、おっさんなりにファンの熱気を知っているはずだ。

 球団のオーナー会社では、朝の挨拶代わりに「夕べの戦い」が話題になって、朝から晩まで上から下まで、自球団の熱気に包まれているものなのだ。

 7月12日にライブドアは「近鉄再生プラン」を近鉄に送付してあると発表したが、あれに近いことはどこの球団も考えている。同社はこれまでどのくらい「プロ野球への熱気や熱意」を見せてきたのか、寡聞にして知らない。ほんとうにプロ野球経営に加わりたいのなら、これから何年もねばり強く“熱気と誠意”を球界とファンに示していくことが必要だろう。

プロ野球の危機は、合併などではなく前時代的な組織にある
岡崎 満義/ジャーナリスト)

 7月10日、オールスター戦の日に、労働組合・日本プロ野球選手会が臨時総会を開いた。選手会に所属する12球団742人のうち、本人出席30人、委任状552人。近鉄・オリックスの合併の1年間凍結を含む6項目が、総会で議決された。

 議決内容は大きく分けると2つ。1つは手続き論。すべてを球団経営者だけで決めるのではなく、民主的に選手会も同じテーブルに就くこと。最終的な手段としては、ストライキも視野に入れること。

 もう1つは、プロ野球の現状改革の具体的提案。「一部の球団のみに戦力と資金が集中している現行制度を見直すこと」「テレビ放映権の一括管理方式、球団の経営状態をチェックする経営諮問方式」など。

 面白かったのは、このことを報じた朝毎読3紙の7月11日付の紙面だった。朝毎の大見出しは「合併強行ならストも」、読は「スト権確立には至らず」。読売は1リーグ論者の渡辺恒雄・巨人オーナーのお膝元だから、この落差も仕方がないか。

 ついでに記事(文字)量を比べてみると、おおよそのところ朝日3300字、毎日4100字、読売1000字となっている。相当な温度差だ。

 朝毎の論調を煎じ詰めれば、諸悪の根源は渡辺恒雄オーナーにあり、できることならプロ球界から貝殻追放したい、というのがホンネだろう。

 選手会の議決のうち、手続き論は紆余曲折はあっても、オーナー側に受け入れられる気がする。むしろ問題は現状改革案だ。テレビ放映権の一括管理、一部の球団(巨人)のみに戦力と資金が集中している現行制度を変えることに、渡辺オーナーは大反対するだろう。

 3年ほど前、渡辺オーナーをインタビューした時、自由競争、市場主義経済思想、自助努力のモラルが、この人のバックボーンになっていると思った。なぜ、自助努力のない球団に、人民管理の時代でもあるまいに、平等にサポートしなければならないのか。

 赤字は何よりも自助努力が足りないからではないか。 しかし、アメリカ大リーグでは「ぜいたく税」などがあり、金満球団ヤンキースは10数億円の課徴金を払っている。といったところで、渡辺オーナーは、何から何までアメリカに右へならえする必要がどこにあるのか。

 アメリカ・システムが正義ではない。日本には日本のやり方があってしかるべきだ、と突っぱねるだろう。渡辺オーナーはナショナリストであり、プロ野球に日本システムがあって当然だ、という強い考えの持ち主と見た。

 この日本主義は選手会のストライキと真っ向から衝突するだろう。正面衝突してもかまわないが、その前に渡辺恒雄コミッショナー、長嶋茂雄セ・リーグ会長(健康が回復すればの話だが)、王貞治パ・リーグ会長でプロ野球界運営をやってもらうことはできないか。

 言ってみれば、徹底した「巨人ぶらさがり型経営」でいけるところまでいく。渡辺オーナーは滅法、責任感の強い人だ。他のオーナーとはちがう。3年くらいは何とかいけそうな気がする。その猶予期間に、次の手を考える。

 渡辺オーナーのチエと馬力を巨人だけに限定しないで、より大所高所に立って、プロ野球全体のためにつくしてもらうのである。そのうちに、よくもわるくも世代交代の時が来る。 巨人ぶらさがり型経営で、永久にプロ野球が発展するとは思えない。

 でも、WONの三本の矢でしばらくは難問に勝てるのではないか。WONのチエと馬力に期待してみたい気がする。

日本球界再編、韓国からの視点
大島裕史/ジャーナリスト)

 有名な日本文化論の中に、韓国の学者・李御寧氏の書いた『「縮み」志向の日本』という著作があるが、昨今、プロ野球がみせている「縮み」志向ぶりは、日本の閉塞感を象徴しているように思える。  

 韓国のプロ野球は、8球団の1リーグ制だ。韓国シリーズなどのポストシーズンを成立させるため、2シーズン制や4チームずつ分ける変則2リーグ制などを試し、現在は、シーズン3、4位のチームが準プレーオフを、その勝者と2位がプレーオフを戦い、その勝者と1位チームが韓国シリーズに進出するという制度に落ち着いている。  

 パリーグのプレーオフに似たこの制度で、ポストシーズンは確かに盛り上がるが、その分、ペナントレースの価値は落ちる。オールスター戦も急造の東軍・西軍では、やる方も観るほうも、モチベーションが上がらない。そこで何とかチーム数を増やし、2リーグ制にしたいというのが、韓国プロ野球の悲願である。  

 しかし、韓国の高校野球チームはわずか50程度。プロ野球のフランチャイズを置くだけのインフラを備えた都市も少ない。その点日本は、プロでも使える立派なスタジアムが全国各地にある。素質のある選手の層もかなり厚い。  

 先日韓国に行った時、韓国の野球関係者はこんなことを言っていた。 「日本は世界的な大企業がたくさんあるのに、海外のプロチームのスポンサーになっても、日本のプロ野球は支援しない。これってかなり不思議ですよね」  

 社会人野球との関係や、企業の形態も韓国とはかなり違うので、単純には比較できないが、経済大国で、野球が国技とも言われるほど人気のある日本で、12チームのプロ野球が成り立たないとしたら、相当情けない話ではないか。  

 球界再編の動きが現実のものとなる中で、アジアリーグ設立を論じる人も増えてきた。実現の可能性はまだ低いが、アジアに目を向けることはいいことだと思う。しかし、1リーグ制になって、日本シリーズがなくなるからアジアだという、消極的な発想では、韓国も台湾もなかなかついて来ないのではないか。

 選手の海外進出が進む中、もっとアジアが結束すべきだという考えを持っている人は、韓国にもかなりいる。けれども、韓国プロ野球の現状は、はるかに厳しい。 観客動員は多少の増減はあっても、全体として減少傾向にある。

 入場料がほぼ同じの映画では、「シルミド」や「ブラザーフット」が1本で1千万人を超える観客を集めたのに対し、昨年度のプロ野球は、ペナントレース、ポストシーズンの全試合を合わせても295万人、1試合平均5413人しか観衆がいない。

 韓国のプロ野球も22年の歴史を持ち、草創期に比べれば、インフラなどもだいぶ整備されてきたが、それでも日本とは規模がかなり違う。もし日本のプロ野球が、経営の論理だけを押し立てて、手を握ろうとすれば、呑み込まれるのではないかと、警戒されるのが落ちだろう。 まずは、アジアの野球を発展させるための夢が持てるビジョンと、相互の信頼構築が不可欠だ。

 全体のレベルアップを図るために、シーズン終了後に沖縄などで韓国、台湾、それに進境著しい中国などを交えた、アジア教育リーグなどから始めてはどうだろうか。

 すぐに実現は難しいだろうが、アジアの球界全体が刺激を求めているのは確かだ。夢のないところに、人はついてこない。それは、どの国のプロ野球ファンも同じだろう。

 


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